研究課題
細胞は、必須金属イオンを過不足なく細胞質での濃度を調節し利用している。この点を、細胞膜の金属イオン輸送系と濃度感知システム、液胞の金属イオン集積機能とそれを支えるプロトンポン、金属結合タンパク質に焦点を当て、分子素子とシステムの自律的なイオン調節機構を解明することを目的とし、本年度は、下記の成果を得た。(1) H+-PPaseの構造と機能調節機構:H+-PPaseの特定アミノ酸残基に変異導入することにより、その変異型酵素の機能を定量し、原子レベルでの立体構造の中で、個別アミノ酸残基の機能を推定した。とくに、基質加水分解機能とプロトン輸送機能の共役に関わる残基、プロトン輸送に直接関わる残基等を新規に特定することができた。(2) H+-PPaseからみた液胞形態のダイナミズム:酵素欠失株に自プロモータ制御下で発現するGFP- H+-PPase導入植物の作出に成功したので、各組織・細胞における液胞の形態的、機能的なダイナミズムを解明した。合わせて、GFP付加による人為的な細胞構造の出現も明確にし、GFP利用のリスクを論文として世界に発信した。(3) Zn輸送体(MTP分子種):Znは必須微量元素であるが過剰濃度では毒性を示す。過剰Znは液胞に隔離・蓄積されるか、細胞外に排出される。液胞膜亜鉛輸送体AtMTP1分子に注目し、分子内のHisループ(Hisを多く含む領域)の生理機能の解析を進めた。とくにHisループは細胞質亜鉛濃度を感知し、AtMTP1のZn輸送機能を調節する可能性があると推測し、この領域を欠失した変異型MTP1導入株でのイオンバランスを定量的に解析し、個別変異株の生理的特性を解析し、結論として、Hisループが細胞質亜鉛濃度が低い場合はAtMTP1のZn輸送活性を抑制するセンサー機能を果たしていることを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
下記2点において、当初計画以上の進展がみられた。(1)液胞膜亜鉛輸送体AtMTP1分子に注目し、分子内のHisループ(Hisを多く含む領域)の生理機能の解析を進めた。酵母細胞を利用した試験管内でのアッセイでは、Hisループの一部を欠失したAtMTP1は、輸送活性が10倍以上に促進された。このことから、このHisループ欠失の変異型AtMTP1を発現させた植物体は、液胞への亜鉛蓄積能力が高くなり、過剰亜鉛に対する耐性が高まると推定した。しかし、変異型AtMTP1導入株を解析したところ、過剰亜鉛耐性に変化はなかった。そこで、逆に亜鉛欠乏に対する耐性を検討したところ、変異型AtMTP1導入株では根における亜鉛吸収蓄積能力が亢進し、結果的にシュート(茎、葉等の地上部)に提供する亜鉛を減じていることが定量的に明確になった。結論としては、Hisループが細胞質亜鉛濃度が低い場合はAtMTP1のZn輸送活性を抑制するセンサー機能を果たしていることを明確にすることができた。そして、作物の中でも根菜類であれば、変異型AtMTP1を導入することによって、低亜鉛土壌でも高い亜鉛地区能力を付与できる可能性も示した。(2)H+-PPaseを単量体型GFPで標識することで、細胞分裂直後から細胞肥大する過程における細胞内液胞のサイズおよび挙動を、世界で最初に、GFPによる人為的影響を含まない形で示すことができた。
(1) H+-PPaseの2つの生理機能の評価:H+-PPaseは、ピロリン酸(PPi)の加水分解と液胞酸性化の2つの機能をもつ。脱共役型分子(PPiの加水分解を触媒するがプロトンを輸送しない)を植物に発現することで、2つの生理機能の特質と意義を明確にする。加えて、プロトンポンプとしてのV-ATPaseが相補的に発現と活性が変動するかも解析する。(2) H+-PPaseの構造-機能解析/機能調節の解明:情報伝達因子PtdInsPはH+-PPaseに結合するので、活性に与える効果をin vitroで検証する。液胞膜のPtdInsPを蛍光プローブで検出し、H+-PPaseの生理的機能調節機構解明の契機とする。Mgを必須とするH+-PPaseがMg、Znなどのストレス下で活性化、機能抑制が起きるか否かも検証する。(3) 新規金属結合タンパク質(PCaP)の金属ストレス応答機構の解明:細胞膜のPCaPは、金属のみでなくPtdInsPやカルモジュリンとも相互作用する。情報変換に関わり、未知分子とも相互作用すると推測している。そこで酵母two hybrid法と免疫共沈法によりPCaPと相互作用する分子を探索する。相互作用分子の機能予測は困難であるが、プロモータ-GUS法で発現・蓄積部位がPCaPと一致するかを検証する。PCaP1-GFP発現植物株も並行して解析し、金属ストレス下での量的、空間的な変動を明らかにして、金属ホメオスタシスへの寄与を明確にする。(4) 金属結合タンパク質を液胞に集積することの影響解析:これまでに亜鉛結合ドメイン、金属結合タンパク質を複数単離同定してきた。それらに液胞局在化シグナルを付して植物に導入し、その効果を解析し、液胞のもつ金属集積能力と、植物の生育との関連を解析する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
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