研究課題
植物細胞は、必須金属イオンを過不足なく、細胞質での金属イオン濃度を調節しつつ生体反応と構造維持しつつ利用している。この点を、細胞膜の金属イオンイオン輸送系と濃度感知システム、液胞の金属イオン集積機能、ならびにその集積機能をエネルギー的に支えるプロトンポンプ、金属結合タンパク質に焦点を当て、分子素子とシステムの自律的なイオン調節機構を解明することを目的として、主としてシロイヌナズナを対象に研究を実施し、2015年度は下記の成果を得た。いずれの成果も、学術論文として公表した。(1)細胞内亜鉛輸送体としてMTP12に注目し、その分子の存在様式、局在部位を解析し、MTP12がMTP5とのヘテロ多量体を形成し亜鉛輸送能を発揮していること、さらに、この複合体MTP12/MTP5がゴルジ装置に局在することを明らかにした。(2)液胞膜亜鉛輸送体MTP1は、細胞質側のHisに富んだ領域の一部を欠落することで亜鉛輸送機能が10倍以上に増大する知見を得ていた。これは酵母細胞に発現させて得た知見であるが、この変異型MTP1を正常なMTP1を欠失した株mtp1に導入したところ、低亜鉛条件では、根に多量の亜鉛を蓄積し、地上部に配分できず、亜鉛欠乏状態に強い感受性を示した。これは、His領域が低亜鉛濃度では、亜鉛輸送を抑制するブレーキ役を果たしているためと判断した。亜鉛輸送分子自身が亜鉛濃度を感知し輸送活性を調節する機能をもつことを明確に示す知見となった。(3)カルシウム等を結合するタンパク質PCaP1に注目し、PCaP1が細胞膜に安定して局在すること、培地の銅イオン過剰条件で遺伝子発現が増大し、さらに遺伝子欠失株は、過剰な銅に感受性が高くなり、かつ気孔の閉口機能に障害が生じていることなど、PCaP1の生理機能の一端を解明した。
1: 当初の計画以上に進展している
(1)MTP12に関する成果: 局在と機能が不明であり、生物界でも最も大きな分子サイズをもつMTP12について、研究を進めた結果、これがゴルジ装置に存在し、なおかつ、それ自身の多量体ではなく、通常サイズのMTP5とのヘテロ多量体(おそらくヘテロダイマー)を形成することで亜鉛輸送機能を発揮することを実験的に証明できた。分子サイズが大きく、遺伝子操作が困難かつ、存在量も多くはない分子について局在、機能複合体の存在を明らかにできたことは、当初予測していなかった成果である。(2)MTP1分子については、酵母での実験から、細胞質Hisリッチ領域は、亜鉛輸送のブレーキ役を果たしていると推定した。この点を確認するために、変異型MTP1として植物に組込み亜鉛濃度等を解析した。当初、過剰亜鉛に対する耐性が高まると予測したが、結果は、過剰亜鉛への耐性は変化せず、低濃度亜鉛の場合の亜鉛欠乏症が顕著になるとの結果を得た。これは、根において、細胞質に残すべき亜鉛を必要以上に液胞内に輸送し、結果として、地上部に供給する亜鉛が不足し、顕著な欠乏症を呈する原因となっているためと結論した。これは、Hisループの役割を、植物で示し得た重要な知見となった。
(1)H+-PPaseの2つの生理機能の評価:H+-PPaseはピロリン酸加水分解とプロトン能動輸送の2つの機能をもつ。これまでの解析により、基質加水分解機能の重要性が明確になってきたが、なぜ、プロトンポンプ機能を備えたH+-PPaseが必要なのかという疑問には、遺伝子欠失株での実験からは解答が得られていない。そこで、H+-PPase欠失株および可溶性PPase欠失株での表現型を詳細に検討し、プロトンポンプ機能の際立つ場面を明確にする。低温、低酸素状態なども含めてストレス下での生育を検討する。(2)新規金属結合タンパク質(PCaPおよびCCaP)の金属ストレス応答機構等の解明:細胞膜結合PCaPはPtdInsPやカルモジュリンと相互作用し、金属ストレスに応じた発現変動も明らかにした。部分的に類似した構造をもつCCaPタンパク質は細胞質可溶性タンパク質として存在する。その遺伝子欠失株の表現型および金属ストレス等に関する感受性を検討し、特に顕著な変化を示す金属を明確にする。(3)細胞膜、液胞、ゴルジ装置、小胞体膜に局在化する未知亜鉛輸送体について検討し、その詳細を明らかにし、細胞全体での亜鉛恒常性維持機構を明らかにする。3年間の成果を、「膜輸送システムと金属結合分子からみた植物細胞の自律的イオン濃度調節機構」としてモデルを提案する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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