研究課題/領域番号 |
26252015
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小鹿 一 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (50152492)
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研究分担者 |
矢島 新 東京農業大学, 応用生物科学部, 准教授 (30328546)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 疫病菌 / Phytophthora / 交配ホルモン / 受容体 / 生合成 |
研究実績の概要 |
1.疫病菌交配ホルモン受容体の探索 前年度までに2種のα1蛍光プローブで受容体分布の観測を試みたが成功しなかった。そこで当該年度は、脂溶性の低い第3のプローブα1-PEG-Alexa488を合成して同様の実験を行ったが、やはり菌体全体(おそらく細胞壁)が非特異的に染色された。さらに消化酵素を使って菌体からプロトプラストを作成して全てのプローブで蛍光染色を試みたがA2交配型選択的な染色は観測できなかった。次に蛍光プローブの受容体に対する親和性が低いことが原因と考え(実際ホルモン活性は低い)、光親和性プローブを合成し、菌体から抽出したタンパク質と反応させ、電気泳動で解析した。しかし、やはり特異的結合タンパクを見出すことはできなかった。 2.交配ホルモン生合成酵素の特定 交配ホルモンα2はA2交配型がphytolを原料に生合成することが判明しているので、A2交配型はα2生合成酵素(おそらく水酸化酵素)をもつ。そこで、A2交配型の菌体からタンパク質を粗抽出し、phytolを添加してα2の生成を高感度LC/MSにより解析した。しかし、その生成は検出限界以下(液体培養時の約1/10以下)であった。そこで、粗タンパク液の代わりに菌体そのものを用いて生合成酵素活性を調べた。様々な条件を検討した結果、菌体を純粋中でphytolとインキュベートすると通常培地を凌ぐ高率でα2を生成することがわかった。したがって今後、菌体破砕物から粗抽出タンパクへと生合成酵素を絞り込むことができると期待される。さらに、生合成中間体と考えられる2種のモノ水酸化phytolの生成をLC/MSで観測できたことから、α1はphytolの2段階の水酸化で生成することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交配ホルモン受容体に関しては、当該年度までの5年間で、3種のα1蛍光プローブの他にアフィニティー精製プローブ、光親和性プローブを合成し、菌体抽出タンパク質中の受容体の検出を試みてきたが、残念ながら受容体の存在自体をまだ確認できておらず、達成度は満足のいくものではない。しかしこの間、菌体からのタンパク質の抽出法、プロトプラストの調製法などに習熟できたことは今後の研究を加速させると期待できる。また、大きな基を保持したプローブでは受容体との結合親和性が低い可能性や、受容体の発現自体が極めて低い可能性等が浮上し、今後の対策に有益な情報が得られたと考えられる。 生合成酵素の探索では、当該年度1年間の研究で、粗抽出タンパクにα2合成活性は見出していないものの、菌体を純水中でインキュベートすると2日でα2が効率よく生成するという興味深い現象を見出した。これはα2生合成酵素の発現量に関して次のステップに繋がる重要な知見を示すものであり、一定の成果と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
交配ホルモン受容体に関しては、化学的に不安定なα1(pH依存的な平衡混合物)の代わりにα2をプローブ化することで解決をはかる。さらに分子サイズが大きく変わる誘導体プローブではなく、放射性同位体標識α2を用いて結合実験を高感度化することで受容体の存在をまず確認する。 生合成酵素の探索では、培地を含まない純水中でもA2交配型菌体がphytolをα2に効率的に変換できることがわかったので、この生合成酵素を高発現していると予想される菌糸を部分的に破砕したもの、強く破砕したもの、細胞分画したもの、粗タンパク質と、菌体から分子に徐々に微細化することでα2生合成アッセイ条件の確立を目指す。一旦、条件が確立され酵素活性が検出できればオーソドックスな生化学的手法でα2合成酵素を精製する。
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