研究課題
脂質は3大栄養素のひとつであり、細胞膜の主要な構成成分やエネルギー源であるだけでなく、外界からの刺激に応答して“脂質メディエーター”と呼ばれる生理活性脂質が産生されることで、生体防御や神経伝達などに関与するという重要な機能を有している。中でもプロスタグランジン (PG) 類は、遊離アラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ (COX) の触媒作用によって生成される主要な脂質メディエーターのひとつである。PGの一種であるPGD2は睡眠の誘発やアレルギー性炎症に関与する一方、核内受容体であるPPARγの内因性リガンドになるなどユニークな生理活性を有するJ2型PGへと代謝されることも知られている。前年度までに、PGD2の新たな変換経路が存在していることを見出すとともに、PGD2の主要な代謝物のひとつとして、二重結合の位置が12位に異性化したΔ12-PGD2を同定してきた。本年度は、質量分析装置を用いた安定同位体希釈法によるPGD2類の高感度な定量法を確立し、活性化マスト細胞の培養上清中にΔ12-PGD2が生成されることを明らかにした。さらに、PGD2代謝産物による神経細胞分化促進活性を見出した。15d-PGJ2を代表とするJ2型PG類は、神経成長因子(NGF)による神経突起伸長を増強する活性を有していることが明らかとなった。さらに、その増強作用の分子メカニズムの解明を行った結果、NGFにより細胞膜上へ移行したカルシウムチャネルのひとつであるTRPV1に直接的に結合することにより活性化し、結果として神経細胞の分化を誘導することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
安定同位体希釈法によるΔ12-PGD2などのPGD2代謝物の定量法を確立し、実際に活性化マスト細胞の培養上清中にも、Δ12-PGD2が生成することを見出した。また、PGD2代謝物による神経細胞の分化促進活性を明らかにした。さらにその作用機序として、カルシウムチャネルであるTRPV1の活性化を介したシグナル伝達機構が重要であることを明らかにした。
本年度確立した安定同位体希釈法によるPG類の定量方法を用いて、in vivoにおけるPGD2代謝物の定量解析を行う。特に、マスト細胞の活性化が関与するアレルギーなどの疾患モデルにおいて、Δ12-PGD2を中心としたPGD2代謝物の定量解析と疾患との関係について解析を行っていく予定である。また、質量分析法とあわせて、免疫化学的手法による定量解析法の確立を目的として、Δ12-PGD2を中心とするPGD2代謝物に対するモノクローナル抗体の作製を試みたいと考えている。
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Sci. Rep.
巻: 6 ページ: 21262
10.1038/srep21261.
実験医学
巻: 34 ページ: 2370-2373