研究課題
平成26年度は初年度のため,総合的な「湿潤化による生態系の破壊」に移る前に,申請書に挙げた4つのグループにおける中心的な課題について個別の「湿潤化による生態系の破壊」の検討を行った.植物生理学的反応に関しては,MEMS技術を応用した単葉単位の蒸散速度の推定を行った.植物生態学的反応に関しては,新規のエレゲイサイトの永久凍土層内の活動層分布,毎木調査を行い,ヤクーツク近郊のスパスカヤパッドサイトとの比較を行い2005年~2008年の豊水状態を両サイトで比較を行った.凍土物理学的反応のに関しては,簡易貫入試験機を導入するとともに,衛星データを用いた湿潤荒廃地の抽出では2007年~2009年の間に対象地域での荒廃率を求めた.そして河川水文学的反応では,東シベリアと近接するモンゴルの夏期降水量と大気水循環の関係を調べた.これらの結果は,それぞれの地域スケールにおける「湿潤化による生態系の破壊」として重要なものである.平成27年度からは,これらの地域スケールにおける壁を取り除き,植物生理学から河川水文学までを1つの水・炭素の流れに沿った総合的な「湿潤化よる生態系の破壊」に繋げて行く.
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は,各グループの対象領域(植物生理学的応答,植物生態学適応,凍土物理学的反応,河川水文学適応)における環境要因と各応答関係をまとめることとした.植物生理学的反応グループでは,MEMS技術によって作成した超小型道管流測定システムを開発し,単葉単位での蒸発散量・光合成量の検出をした.植物生態学的反応グループでは,エレゲイに新サイトを構築し土壌水分特性曲線,永久凍土の活動層厚,毎木調査などを行った.そして,ヤクーツクのスパスカヤパッドのサイトとの比較により,エレゲイサイトではヤクーツク周辺に見られるような2005年~2008年の豊水状態は確認されなかった.また,エレゲイサイトでは,2015年度に向けたSap Flow Systemの観測体制が整備された.凍土物理学的反応グループでは,簡易土壌貫入試験機をシベリアに導入し,永久凍土の活動層厚を予備調査した.その結果,草地と森林で活動層厚が異なること,森林で50x50mと比較的小さいスケールでも100~150cmと活動層厚が異なること,活動層の中,下層部には湿潤面が存在し2005年~2008年の豊水状態が残されていることなどが分かった.また,レナ川中流域における衛星データを用いた湿潤荒廃地の抽出では,2007年~2009年の間に対象地域の7.3%が湿潤現象により荒廃したと考えられた.河川水文学的反応グループでは,シベリアに近接するモンゴルでの夏期降水量変動と大気水循環の経年変動解析を行った.その結果,降水量は1999年から顕著な減少が見られ,この傾向は蒸発散量の減少にも寄与していた.そして,この傾向はNDVIの傾向に一致するものであった.今後は,同様の解析が東シベリアでも行われる事を期待したい.
平成26年度は,「湿潤化による生態系の破壊」に関して,各研究グループの中心となるテーマについて検討を行った.その結果,4つのグループともに良好な結果を導き出せた.特に,植物生態学的反応グループと凍土物理学的反応グループでは,それぞれ2005年~2008年の豊水状態を示す状況が得られたと考えられる.平成27年度は,各研究グループの中心テーマのみではなく,「湿潤化による生態系の破壊」に関して相互に関連し合うテーマについて検討を行う予定である.つまり,植物生理学的反応と植物生態学的反応に対してはカラマツの湿潤化による枯死に向かう段階的な応答である.また,植物生態学的反応と凍土物理学的反応に対しては,加湿が認められる森林(SPA)と加湿が認められない森林(ELG)の対比が次の課題となる.そして,凍土物理学的反応と河川水文学的反応では荒廃プロセス,つまりローカルな現象の衛星データへの積み上げと河川流出量,蒸発散量との関係を得る事が課題となる.そして,平成27年度末には,これらの課題に対しての一定の回答とまだ回答が得られていない部分とに分けられる.そのことを,次年度の対象とする.
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