研究課題/領域番号 |
26252021
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
太田 岳史 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (20152142)
|
研究分担者 |
檜山 哲哉 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (30283451)
小林 剛 香川大学, 農学部, 准教授 (70346633)
飯島 慈裕 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (80392934)
小谷 亜由美 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (80447242)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 環境変動 / 北方林 / 加湿状態 / カラマツ林 / 永久凍土 |
研究実績の概要 |
本年度は3年目であるために,4つの研究グループに分かれて研究を行った. 森林生理学的反応グループは,昨年,奥日光で行った湿潤条件のカラマツの枝・葉に関する研究を引き続き行った.その結果,湿潤条件下におかれることにより,枝・葉は短枝化,葉の黄化,早期落葉化が生じた.また,枝・葉に装着可能な道管流センサーを開発し,特許申請が可能となった. 森林生態学的反応グループは,東シベリアのカラマツ2林分において,乾燥年と湿潤年における蒸発散量の比較を行った.その結果によれば,森林が生育する地点の土質に蒸発散量は強く影響され,砂質に成林するカラマツ林では乾燥年では吸水深度が深くなり,シルト質に成林するカラマツ林では両者の差はほとんどなかった.同様の結果は,樹木の根系とその土壌水分利用に関する研究においても見られた. 凍土物理学的反応では,地点スケール,小領域スケール(10km),中領域スケール(100km)における活動層厚,サーモカルストの発達に関するデータが得られた.それによれば,活動層厚,サーモカルストの発達過程はサイズ,分布が場所によって異なり,森林では大きなサイズ,草地では小さなサイズとなることが推定された.また,サーモカルストの発達過程を定量化でき,平均沈降量から氷体の消失量が推定された. 河川水文学反応グループでは,レナ河全体の流出特性について検討を行った.その結果,流域植生がツンドラ帯である流域下流部の影響を強く受けることが分かった.これは流域上流部である森林帯(タイガ帯)においては影響が少ないことを意味する.その点で,森林生理学,森林生態学,凍土物理学とは違った影響を示すこととなった.流域上流部でのより小さな流域スケールでの解析が望まれる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
森林生理学的反応グループは,奥日光カラマツ林で湿潤状態によって枝における短枝化,葉の早期落葉化が認められた.これらは,林冠~林分レベルでの変化,林冠フェノロジーの変動予測を可能にするものである.また,湿潤年からのシュート構造の変化や葉の振る舞いの変動,水文過程を複雑化する可能性を示唆している. 森林生態学的反応グループでは,東シベリアのカラマツ林において,森林が湿潤状態にあるときと乾燥状態にあるときとで蒸発散量に利用される土壌水分の吸水深度が異なる事が推定された.これは,同じ林分で樹木の根系と土壌水分利用の研究からも,同じ結果となった.これは,湿潤・乾燥により土壌からの吸水深度が異なる点で注目される. 凍土物理学的反応グループでは,地点,小領域(10km),中領域(100km)における活動層厚,サーモカルストの発達状況を調べた.その結果,それらの分布特性と森林,草地といった地表面状態とに顕著な差があることが分かった.これは,結果をより大きな範囲に広げて行ける可能性を意味する. 河川水文学的反応では,レナ河全体での流出特性に関する検討をおこなった.その結果,レナ河ではツンドラ帯がその大部分を占める下流域がレナ河全体の流出特性の大部分を占めていることが分かった.これは,凍土物理学的反応以下のグループとは異なった反応を示しており,その解釈が期待される.
|
今後の研究の推進方策 |
来年度は最終年度にあたるために,森林生理学,森林生態学,凍土物理学,河川水文学で分けていた領域を少しくずして,それぞれの境界領域での研究をまとめの方向とする. 森林生理学的反応のグループは,枝・葉のシュート構造や,葉の振る舞い方が水文過程を複雑化するとの仮説を述べている.その仮説を立証し,森林生理学と森林生態学の相互作用があることを示して行く.そうすることが,加湿現象が生まれる状態とその変動過程が両分野で見られることになる. 森林生態学的反応の分野では,土壌水分が深度が思っていたよりも深いところからの水が消費されており,その反応が乾燥年と湿潤年で異なる事を理論的な立証が必要となる.また,活動層厚と植生調査の結果を組み合わせることにより,加湿に対するダメージを森林生態学,凍土物理学により解析することができるようになる. 凍土物理学的反応では,地点~中流域スケールで得られた解析をもとに,大流域(サハ共和国全体),環北極域へと解析を広げる予定である.これにより,森林生態学と凍土物理学が結びつけられる可能性がでてくる. 河川水文学的反応では,森林生理学,森林生態学,凍土物理学とは違い,東シベリアの森林帯では加湿の影響をあまり受けていないという推理を行っている.より小流域での解析が行われ,この結論がどうして生まれたのかを議論することが,河川水文学と森林生理学,森林生態学,凍土物理学を,水を1つの考え方で結びつける引き金となる.
|