研究課題/領域番号 |
26252030
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
塚本 勝巳 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (10090474)
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研究分担者 |
朝比奈 潔 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (10147671)
大竹 二雄 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (20160525)
足立 伸次 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (40231930)
坂本 崇 東京海洋大学, その他部局等, 教授 (40313390)
杉田 治男 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (50139052)
金子 豊二 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (70221190)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ウナギ / 種苗生産 / 催熟 / レプトセファルス / 飼育技術 |
研究実績の概要 |
1.生殖形質の解析(北大):天然ニホンウナギの未分化生殖腺における性分化関連遺伝子の発現解析の結果、全長20-30cmの一部の個体で、将来卵巣または精巣に分化すると思われる個体がみられた。20cm程度までは性分化関連の遺伝子は発現していないことが示された。ニホンウナギの卵成熟誘起ステロイドの17α, 20β-ジヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン(DHP)産生制御メカニズムを初めて解明した。 2.味覚・嗅覚受容機構と奇形発症の解析(東大):仔魚期の味覚受容器が口唇と下顎部に局在することが明らかとなり、成魚における口唇から咽頭部に至る広範な分布と大きく異なることが示された。仔魚の外部化学感覚受容反応の検出手法に有効と考えられる分子マーカー候補を得た。仔魚の飼育水槽の水流に対する体長と形態異常の影響を調べた結果、流速の増加に伴って仔魚の体長は小さくなり、脊索後湾を呈する割合が多くなることが明らかになった。変態完了した人工シラスで半数以上に計8種類の脊椎骨異常が観察され、その形態学的記載を行った。 3.微生物群集が仔魚の成長におよぼす影響の検討(日大):産卵海域の環境について、細菌を中心とした微生物叢を明らかにするため、前年度とは異なる地点の海水から環境DNAを抽出し、16S rRNA遺伝子を対象とするクローンライブラリー法に供した結果、いずれの試料でも前年度の分析結果同様、Verrucomicrobiae綱に分類される細菌群が検出されたことから、当該細菌群が仔魚の成長に何らかの影響をもっている可能性が示された。 4.高成長・早期変態に関わる遺伝マーカーの探索(東京海洋大):優良種苗を作出するために、仔魚の変態に着目し、GBS解析法によるQTL解析を行った。F2分離した85%の個体でデータが取得でき、455SNPsが検出された。これを用いてR/qtlによるComposite interval mappingをしたところ、LODスコア3以上で変態に関連すると思われる候補遺伝子座が見つかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.生殖形質の解析(北大):全長20cm程度までは性分化に向けた遺伝子発現は開始していないことが示唆されたことは、ホルモンを使うことなく雌分化させる飼育方法確立に極めて有用な知見となった。ニホンウナギのDHP産生制御メカニズム解明は今後の排卵および卵質決定の分子機構の解明に寄与する。 2.味覚・嗅覚受容機構と奇形発症の解析(東大):仔魚期特有の味覚受容器の分布パタンが明らかとなり、仔魚の摂餌行動の推測や餌料の物性の検討を行う上で重要な情報が得られた。加えて仔魚での外部化学感覚受容反応の検出手法の確立に向けて有望な分子マーカー候補が得られ、今後仔魚が示す餌料候補物質に対する反応をより詳細に検討可能となることが期待される。発育段階によって水流が生残・成長・形態へ与える影響が異なり、健常なウナギ種苗生産の実現に向けて、孵化から変態に至る各発育過程に適した水流環境で飼育することの重要性が示された。 3.微生物群集が仔魚の成長におよぼす影響の検討(日大):仔魚の成長にある特定の微生物群集が関与していることがわかり、初期餌料の開発と飼育システムの開発において有用な示唆が得られた。 4.高成長・早期変態に関わる遺伝マーカーの探索(東京海洋大):QTL解析の結果、変態に関連する遺伝子座を検出できたことで、ニホンウナギの育種のための基礎情報を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1.生殖形質の解析(北大):引き続き、組織学的解析と生殖関連遺伝子の発現量を指標として、性分化および配偶子形成に及ぼす環境要因の影響を調べることにより、生殖形質識別技術開発を行う。また、排卵および卵質悪化の分子機構を解析する。 2.味覚・嗅覚受容機構と変態機構の解析(東大):ニホンウナギ仔魚での自発摂餌誘発手法の確立にむけて、仔魚の味覚・嗅覚受容反応の検出法を確立する。またその反応特性と受容機構を担う分子群やその発達過程との関連について分子生理学と機能形態学的手法により解明する。天然ウナギの回遊経路である西部北太平洋の北赤道海流及び黒潮流域の海洋物理データと鉛直移動を行う仔魚の行動パタンを解析し、さまざまな環境条件下で飼育実験を行う。同時に耳石酸素同位体比分析を行い、天然・人工仔魚の経験水温を照らし合わせることにより、仔魚の円滑かつ健常な成長・変態に最適な水温条件を明らかにする。 3.微生物群集と仔魚のストレス応答の解析(日大):仔魚の飼育システム中の微生物群集の動態を解析する。天然ニホンウナギ仔魚の腸管部位と環境水から16S rRNA遺伝子を得て、両者の微生物叢をさらに詳細に比較解析する。昨年にひき続き、ストレス耐性に関する生理学的研究の一環として、仔魚と変態終了後の稚魚について免疫組織化学的に間腎腺組織の検索を試みる。 4.高成長・早期変態に関わる遺伝マーカーの探索(東京海洋大):飼育初期の高成長家系作出のため、完全養殖人工親魚を雌雄1対1交配させ、仔魚の成長率と変態時期に関してGBS法によるQTL解析を実施する。 5.新規初期飼料と飼育システムの開発:天然仔魚の餌料であるマリンスノーの分析結果を参考に、新規飼料を開発する。現行の飼育システムの大型化を図る。
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