研究課題
1. サケ科魚類鰓におけるカリウムチャネルROMKの同定近年、鰓塩類細胞からのK+排出にカリウムチャネルROMKが関わり、K+と同族のアルカリ金属であるCs+もROMKを介して排出されることがティラピアで示された。このようなROMKを介したK+排出機構の存在を、サケ科魚類4種(イワナ、ギンザケ、ニジマス、ヤマメ)を用いて調べた。サケ科魚類4種のROMK cDNAの全長配列を決定した結果、ROMK演繹アミノ酸配列は互いに97~100%の配列相同性を示した。次に、サケ科魚類ROMKの機能特性を詳細に調べるために、K+負荷に対する応答性を調べた。イワナ、ニジマス、ヤマメを高K+淡水で飼育した結果、いずれの魚種においてもROMK遺伝子の発現量に顕著な変化は見られなかった。ギンザケについては海水でもK+負荷実験を行ったが、同様にROMK遺伝子の発現量に変化はなかった。さらに免疫染色により塩類細胞におけるROMKの局在を調べたところ、ニジマスにおいて淡水条件では塩類細胞の細胞質全体にROMKのシグナルが確認されたのに対し、高K+条件下では塩類細胞頂端膜側における顕著な局在が見られた。2. 塩類細胞の機能を調べるための鰓弁培養法の確立従来の培養法では添加したホルモンの浸透性に問題があるため、鰓弁を分割して培養する新規培養法を開発した。この培養法は従来培養法と比較して死細胞が少なく、実験系として妥当であると判断した。培養3日後で塩類細胞数を比較すると、PRLを加えた群とPRLとコルチゾルを同時に加えた群で対照群より有意に塩類細胞数の低下が抑制された。また、PRL単独よりもコルチゾルと同時に加えた方が塩類細胞数の低下抑制が良好であった。このことから、PRLは単独で塩類細胞数を維持する作用を有し、またコルチゾルはPRLの作用を相乗的に増強することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初、1)塩類細胞の機能の可塑性と2)セシウムで汚染された魚の除染技術の開発を計画していたが、計画を若干変更して実験を遂行した。1)については「塩類細胞の機能を調べるための鰓弁培養法の確立」を実施し、この培養系により塩類細胞に及ぼす各種ホルモン等の影響をより直接的に検証することが可能となった。また2)に関しては「サケ科魚類鰓におけるカリウムチャネルROMKの同定」を実施し、ROMKを介したカリウム/セシウム排出機構が多くの魚で普遍的に存在することが示唆され、除染技術の確立に向け大きな礎となった。
本研究計画では、魚の浸透圧調節研究の基礎を拡充することと、その応用としてセシウムの除染技術を確立することを大きな目標に掲げている。初年度の研究成果は主に基盤拡充に関わるものであるが、次年度には基盤拡充を進めつつ除染技術の開発の礎を築きたい。
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