研究課題
モザンビークティラピアの鰓から、NKAa1a、a1b、a1c、a2、a3aおよびa3bの6種のアイソフォームを同定した。組織別発現解析の結果、NKAa1aは淡水に馴致した魚の鰓で発現が高く、淡水環境中で鰓の塩類細胞を介したNaClの取り込みに重要であると考えられる。NKAa1bはほぼ全ての器官で海水での発現が高かったが、特に鰓、腎臓および消化管といった浸透圧調節器官で高い発現を示した。これより、NKAa1bは海水環境中での浸透圧調節に最も重要なNKAであることが示唆された。NKAa1cは淡水馴致した魚の鰓、腎臓および直腸でのみ発現が認められ、淡水環境中で鰓でのNaClの取り込みおよび腎臓でのNaClの再吸収に関与すると考えられる。NKAa2は、淡水および海水環境いずれでも筋肉で特に発現が高かった。NKAa3aは海水環境で発現が高く、特に脳、鰓、心臓で高い発現を示した。NKAa3bは淡水および海水環境いずれでも脳特異的に発現し、神経の興奮に関わると考えられる。次に鰓に着目し、NKAアイソフォームの発現量を比較したところ、淡水に馴致した鰓では、NKAa1a、NKAa1bおよびNKAa1cの発現が高かった。NKAa1aおよびNKAa1cの発現は淡水から海水へ移行すると減少し、逆に海水から淡水への移行では発現が上昇した。NKAa1aおよびNKAa1cはNCCを発現する淡水型塩類細胞に発現し、NaClの取り込みに重要なNKAであると推測される。海水に馴致または移行した魚の鰓では、NKAa1bの発現が最も高く、次いでNKAa3aの発現が高かった。NKAa1bは、淡水中でNHE3を発現する塩類細胞に発現し、Na+の取り込みと酸塩基調節に関わり、海水中ではNaClを排出する海水型塩類細胞に発現すると推測された。NKAa3aは海水型塩類細胞で発現し、NKAa1bの機能を補完すると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
研究計画のうち、「ティラピア鰓で発現するNa+/K+-ATPaseアイソフォームの同定とその発現解析」については、当初の計画を大幅に上回る進展が見られた。一方で、「類細胞のイオン輸送機構の解明およびROMKを発現する塩類細胞の同定」については、着実に進展しているものの、さらなる検証が必要である。
本研究は塩類細胞を中心とした浸透圧調節機構の基礎研究を推進するとともに、塩類細胞のカリウム/セシウム輸送機構を解明し、セシウム除去技術の確立を目指すものである。これまでの研究成果で得られた塩類細胞に関する新たね知見をもとに、セシウム代謝機構の全貌を明らかにする方向に研究を進めたい。
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