研究課題/領域番号 |
26252040
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 章 京都大学, 農学研究科, 教授 (80157742)
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研究分担者 |
中畑 和之 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (20380256)
西村 伸一 岡山大学, 環境管理センター, 教授 (30198501)
藤澤 和謙 京都大学, 農学研究科, 准教授 (30510218)
小林 晃 関西大学, 環境都市工学部, 教授 (80261460)
鈴木 誠 千葉工業大学, 創造工学部, 教授 (90416818)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アセットマネジメント / 農業水利施設 / 地震災害リスク / 豪雨災害リスク / ライフサイクルコスト |
研究実績の概要 |
豪雨時に生じる農業水利施設の侵食被害に対しては、水と土の学問分野を隔てることなく、統一的な考え方によって取り組む必要がある。現在の問題は、浸透流と(通常の)水の流れの接続及びその際に土と水の境界部分で生じる土の侵食・変形・破壊を把握することにある。前者については、Darcy-Brinkman式を利用することで多孔質領域の浸透流と流体領域の乱流計算(LES)を同時に行うことに成功した。また、後者については、浸透流の作用下において非粘着性材料の限界層流力を測定し、土質材料の侵食に対する浸透流の影響を実験的に評価した。
一方、豪雨時に河川水位上昇に伴う河川堤防の安全性を定量的に評価することは、維持補修計画にとって重要なことである。そこで、河川堤防の湿潤破壊を対象とし、河川水位の計測データからハザード曲線と浸透流を考慮した確率有限要素法によるフラジリティ曲線を推定し、年破壊確率を算定して維持補修計画に役立てるリスク指標を算定した。また、ジオテキスタイル等を考慮した補強方法が、リスクの低減にどのくらい効果があるのかを定量的に評価した。
さらに、2007年の能登半島沖地震から2011年の東北地方太平洋地震までの5つの地震で被災したダムの損傷状況を分析し、各損傷が発生するダムの特徴をまとめた。その結果、共用期間が長く、堤頂長が短く、堤高の高いダムは損傷を受けやすいことが分かった。また、福島県内で被災したダムに設置された地震計で観測された余震記録の分析を行い、最大断面で加速度が最大とならない振動挙動も発生することが分かった。研究分担者(小林)はこれらを水土の知へ報文として投稿し、和歌山で行われたため池フォーラムで招待講演した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多孔質中の浸透流と流体領域の流れの接続及びその際に土と水の境界部分で生じる土の侵食・変形・破壊の把握については、おおむね順調に進んでいる。前者については、これまでは流体領域の流れが層流である場合に限られていたが、数値的に安定性が高く、壁境界の処理が容易なコヒーレント構造モデルを導入することで、LESによる安定的な乱流計算を可能とした。後者については、これまでに作成した実験水路を利用し、試験材料にガラスビーズを用いた実験を行った結果、非粘着性材料の限界層流力に対する上向き浸透流の影響を動水勾配と摩擦速度の観点から評価した。
一方、実際の河川堤防に沿った数断面を対象として、河川水位の発生頻度であるハザード曲線と河川水位ごとの破壊確率であるフラジリティ曲線から年超過確率を算定した。この年破壊確率を河川堤防の縦断分布で表示することにより、どの箇所のリスクが高く、先に補修する必要があることを示すことができた。ただ、1断面での河川水位データから推定して求めたハザード曲線は見直しの余地がある。
さらに、ダム天端における軸方向亀裂は引張破壊であることを実験により解明した。しかし、その現象を解析で再現することは難しく、揺すり込みによる沈下など通常のモデルでは表現できない現象を考慮する必要がある。また、実際のダムの振動現象は地山からの地震波の入り方により複雑な挙動を示すことを明らかにした。これらはアセットマネジメントにおけるモニタリングや補修の仕方に重要な知見を与えると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
多孔質中と流体領域の流れの同時計算については、今後、粗度の影響を考慮する予定である。水路実験では、浸透流が土質材料の侵食速度に与える影響を評価する。実験から得られる侵食モデルを上述の流れの計算に導入することで、研究成果をまとめる。
また、計算した各断面のハザード曲線を河川幅と標高を考慮して見直し、再度、年破壊確率の縦断分布を求める。次に越流による確率も取り入れ、最終的にはジオテキスタイル等を考慮した補強方法によって、年破壊確率の縦断分布がどのように変化するのかを算定し、補強効果を定量的に評価する。
一方、現有の理論では説明困難な現象が実際には起こっていることが分かったが、その評価を的確に行う手法については不明確な要素が多い。今後は実際現象をどのように評価すれば、より的確にリスクを評価することが可能かを検討する予定である。また、任意年の地震リスク=損失額×地震損失確率を算定し、最終的にLCC=供用年内のリスク+改修費用+維持管理費用を得て、LCCを最小化することで最適な改修および維持管理方法を決定する。この解析を複数の対象地域(ため池群の流域とその下流地域)で実施し、一連の分析を統合化した意思決定システムを完成させる。
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