研究課題
昨年度に引き続き,実験・計測装置として,ビタミンA濃度,飲水量等を計測する装置を完成させ,兵庫県立農林水産技術総合センタ-(以下,兵庫県)および京都大学附属牧場(以下,附属牧場)の2箇所で計測を行った。ビタミンA濃度の計測装置は,牛が飲水していることを検出して飲水場に設置したカメラで自動的に瞳孔画像を撮影するものである。瞳孔画像の撮影は,顔面において1200 lxの照度になるように制御されたLED照明下で行い,画像をコンピュータに保存する。本年度は,装置を両牧場に設置して長期間にわたる画像の蓄積を行うとともに,画像処理によるビタミンA濃度推定について検討を行った。ビタミンA濃度推定については,(1)LED点灯時の瞳孔の収縮状態,(2)瞳孔表面での光反射状態,(3)瞳孔色に関連する画像特徴量を抽出するとともに,血液検査によるビタミンA濃度との相関の調査を行った。その結果,各特徴量と血液検査によるビタミンA濃度との相関が認められたが,バラツキがあるため,今後多変量解析等により精度の高い検量線を得る予定である。瞳孔画像と各牛の対応付けのためには個体識別を要する。平成27年度当初の計画では,色付きの首輪を用い,飲水場の上部に設置したカメラで首輪色を認識して個体識別を行うことにしていたが,実験の結果,首輪色の経時変化による退色のため,個体識別が困難になることがあった。このため,年度途中から白地に黒い模様を刺繍した首輪に取り替えた結果,明瞭な模様が撮影されるようになった。上記の瞳孔撮影のほか,精密畜産のためのデータベース作成のため,血液検査によるビタミンA濃度,ビタミンC濃度の計測,給餌量,残餌量の計測,体重体尺の計測を定期的に行い,データを蓄積した。さらに,飲水中に牛の体温を計測するため,放射温度計による顔面温度計測を試みた。
2: おおむね順調に進展している
瞳孔画像からビタミンA濃度を推定するための検量線モデルを作るためには,ビタミンA濃度のコントロールを行う20箇月程度の計測期間を要すると考えられ,現在は画像データや血液検査によるビタミンA濃度データを蓄積している段階である。実験を行っている2箇所の牧場は研究室から離れているため,牧場に設置して画像撮影に用いているコンピュータの作動状態は,インターネットを経由した遠隔操作によって監視し,問題が発生すると牧場へ行って修理や調整を行っている。現在までの実験では,牛の成長によって目の位置が高くなって瞳孔がカメラの視野から外れることがあった。また,角が長くなった牛では,飲水場の鉄柵パイプに角が当たって首を捻って飲水するためカメラの視野から外れたり,瞳孔が斜めに撮影されることがあった。このため,牛の成長に伴ってカメラ位置や鉄柵パイプの間隔を容易に変更できるよう対策を検討中である。
平成28年度には,兵庫県で計測中の牛の多くがビタミンA濃度を低下させる時期を終了しビタミンA濃度が高くなる。それまでの画像と血液検査によるビタミンA濃度のデータを蓄積して,画像によりビタミンA濃度の正確な推定を行えるよう,検量線モデルの作成を行う。附属牧場では継続してデータを取得し,兵庫県で得られたデータと合わせて解析を行う。さらに,実際の農家に近い環境での動作テストのため,但馬農業高校において教員と打ち合わせの上で,同校に設置される新牛舎への適応性を調べたい。出荷された牛の枝肉形質情報として,枝肉重量,ロース芯面積,バラの厚さ,皮下脂肪の厚さ,歩留基準値および脂肪交雑基準値(BMS)の6項目について結果をデータベースに入力する。これらのデータを統計解析することにより,ビタミンA解析手順を作成する。平成27年度までの実験状況を観察すると,予想以上に牛の動作や成長が画像入力に影響を与えることが知れた。例えば牛が信号線を噛みちぎる,成長によって目の位置がカメラの視野から外れることなどが生じた。平成28年度は,この課題の最終年度であるので,本装置の実用化に向けて,引き続き,牛ならびに粉塵,湿気等に対する信頼性の高いデータを得るための方策も取りまとめる。さらには,企業の担当者と実用化モデルの検討を行う。
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