研究課題
本研究は、哺乳類のメスの卵胞発育と排卵を制御するエストロゲンのフィードバック機構に着目し、エストロゲンの負および正のフィードバックによる性腺刺激ホルモン分泌制御の分子メカニズムの解明とその応用の検証を目的としている。26年度は、動物の生殖機能を最上位から支配するキスペプチンニューロンのうち、視床下部弓状核のキスペプチンニューロンに発現するGタンパク共役型受容体のうちGPR101に着目して研究を行った。GPR101のリガンドである性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)部分ペプチドの脳内投与が、エストロゲン依存性に黄体形成ホルモン(LH)分泌を亢進することを明らかとし、この促進効果がキスペプチンKOラットで見られなかったことから、GnRH部分ペプチドがキスペプチンニューロンに直接作用し、これら両ニューロンによるショートループポジティブフィードバックによりGnRH分泌を促進することを示し、この成果をEndocrinology誌に投稿した。さらに、弓状核および前腹側室周囲核(AVPV)に局在するキスペプチンニューロンに発現する遺伝子を、次世代シーケンサーによりリスト化したことも、大きな成果であった。現在は、この遺伝子リストを元に、エストロゲンによるKiss1遺伝子発現に関わる転写因子をin vitro系にて検討する準備を行っているところである。
2: おおむね順調に進展している
概要に記したように、本研究では、キスペプチンニューロンをターゲットとした、エストロゲン依存性の新たな促進系として、GnRH部分ペプチド-GPR101系による性腺刺激ホルモン分泌を制御するという新たな知見を得た。またこの系が、エストロゲンのポジティブフィードバックによるGnRH-LHサージの制御に関わる可能性を見いだした。また、これらの結果を学術誌に投稿できたことは大きな成果であった。さらに、エストロゲンによる負のフィードバックを担う弓状核、および正のフィードバックを担う前腹側室周囲核(AVPV)に局在するキスペプチンニューロンに発現する遺伝子を、次世代シーケンサーによりリスト化した。これにより、次のターゲットとして、キスペプチン遺伝子発現を制御する転写因子の候補リストを得た点も、今後の研究の発展に寄与すると考えている。一方で、これらの転写因子が実際にエストロゲンにより制御されるか否かについては、今後の課題として残されている。達成度は、これらの成果を総合的に判断したものである。
27年度以降は、エストロゲンの正のフィードバック中枢と考えられる前腹側室周囲核(AVPV)および負のフィードバック中枢と考えられる弓状核のキスペプチンニューロンに特異的に発現する転写因子をターゲットとして、エストロゲンによるこれら転写因子の発現がエストロゲンによってどのように変化するかを明らかにする予定である。昨年度までに整備したin vitro実験系(可視化キスペプチンニューロン培養系)を用い、転写因子のノックダウンがキスペプチン遺伝子発現に及ぼす効果を確かめる予定である。具体的には、キスペプチン遺伝子のプロモータ領域に緑色蛍光タンパク質(GFP)をレポーター遺伝子として結合したコンストラクトを導入したトランスジェニックマウスの初代培養系を用い、培養液へのエストロゲンの添加が候補転写因子およびキスペプチン遺伝子発現に及ぼす効果を検討する。この効果が、AVPV由来と弓状核由来のキスペプチンニューロンで異なることが予想される。さらに、同培養系を用い、細胞内カルシウム濃度を指標として、培養液へのエストロゲン添加が細胞内カルシウムの同期した上昇(カルシウムオシレーション)の頻度に及ぼす効果を検討する。細胞内カルシウムの上昇は、神経伝達物質の放出の指標となるので、本実験により、エストロゲンがキスペプチン放出に及ぼす効果を検討する予定である。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (27件) (うち招待講演 6件)
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