研究課題
本研究は、ほ乳類のメスの卵胞発育と排卵を制御するエストロジェンのフィードバック機構に着目し、エストロジェンの負および正のフィードバックによる性腺刺激ホルモン分泌制御の分子メカニズムの解明とその応用の検証を目的としている。平成27年度は動物の生殖機能を最上位から支配し、エストロジェンのフィードバック作用を仲介すると考えられるキスペプチンニューロンにおける、エストロジェンのキスペプチン遺伝子発現に対する効果を明らかにする為、キスペプチンニューロン由来の不死化化細胞株の作製の為の研究を実施した。成熟雌ラットより視床下部を採取し、キスペプチンニューロンが局在する前腹側室周囲核および弓状核を含む領域に二分した後に、細胞を単離培養した。続いて、SV40 T-antigenとネオマイシン耐性遺伝子を含むレンチウイルスベクターを感染させた後に、抗生物質 (G418) を含む培養液で選抜し、キスペプチンニューロンの不死化細胞を作製を試みた。前腹側室周囲核あるいは弓状核を含む視床下部組織よりそれぞれ85個、91個の候補細胞株を得た。リアルタイムPCRにより、Kiss1、Tac3、Pdyn、Esr1などのキスペプチンニューロンに発現することが明らかとなっている遺伝子の発現を解析し、現在までに、前腹側室周囲核あるいは弓状核に由来するキスペプチンニューロン不死化細胞候補株を複数得た。今後は、これらの不死化細胞を用いて、in vitro系にてエストロジェンの負および正のフィードバックによるKiss1発現およびキスペプチン分泌制御の分子メカニズムを検討する。さらに、本年度は、可視化キスペプチンニューロンのトランスクリプトーム解析によって得られたデータを詳細に解析した。
2: おおむね順調に進展している
概要に記したように、本年度は、ほ乳類のメスの卵胞発育と排卵を制御するエストロジェンのフィードバック機構を仲介するキスペプチンニューロンの不死化細胞株の作製をすすめ、順調に、複数の候補細胞株を見いだした。正のフィードバックを仲介すると考えられる前腹側室周囲核と、負のフィードバック作用を仲介すると考えられる弓状核の両組織からキスペプチンニューロン不死化細胞株の候補が複数得られたことは、今後の研究の発展に大きく寄与すると考えている。なお、これまでに、可視化キスペプチンニューロンのトランスクリプトーム解析により前腹側室周囲核および弓状核キスペプチンニューロンに発現する転写因子群を明らかにしており、その知見と本年度確立した不死化細胞株を用いたIn vitroの実験系において、エストロジェンのフィードバック機構の分子メカニズムを明らかにできることが期待される。
28年度以降は、27年度に作製したキスペプチンニューロン不死化細胞候補株を用いて、エストロジェンの負および正のフィードバックの分子メカニズムを明らかにする予定である。具体的には、キスペプチンニューロンの不死化細胞候補株のエストロジェン応答性を検討する。具体的には、前腹側室周囲核に由来するキスペプチンニューロンの不死化細胞株においてはエストロジェンによりKiss1発現が増加し、弓状核に由来するキスペプチンニューロンの不死化細胞株においてはエストロジェンによりKiss1発現が減少することを確認し、最終候補株とする。続いて、この細胞培養系を用いて、Kiss1発現調節を担う転写因子の同定を目指す。具体的には、可視化キスペプチンニューロンのトランスクリプトーム解析により見いだした転写因子の発現をsiRNAにより阻害し、エストロジェンの応答性を解析することで、エストロジェンの負および正のフィードバックに係る転写因子群を同定する。また、同トランスクリプトーム解析によって得られたキスペプチンニューロンに発現する受容体に着目し、そのリガンドのキスペプチンニューロンへの作用を明らかにする。神経伝達物質・神経ペプチドの分泌の指標となる細胞内カルシウムイオン濃度をモニターし、キスペプチン分泌におよぼすエストロジェンのフィードバック作用とそれに係る生理活性物質を明らかにする。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 2件、 招待講演 6件)
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