研究課題
本研究は、ほ乳類のメスの卵胞発育と排卵を制御するエストロゲン(E2)の負および正のフィードバックによる性腺刺激ホルモン分泌制御の分子メカニズムの解明とその応用の検証を目的としている。本年度はE2のフィードバック作用を仲介すると考えられるキスペプチンニューロンにおける、E2のキスペプチン遺伝子(Kiss1)発現に対する効果を明らかにすることを目的とし、次のin vitroおよびin vivo実験を実施した。In vitro実験:キスペプチンニューロン由来の不死化細胞株の作製およびスクリーニングを実施した。雌ラットより採取した前腹側室周囲核(AVPV)あるいは弓状核(ARC)をから得た細胞をSV40 T-antigenにより不死化し、AVPVあるいはARCよりそれぞれ85個、91個の候補細胞株を得た後、リアルタイムPCRにより、Kiss1、neurokinin B(NKB)遺伝子、dynorphine A (Dyn)遺伝子、E2受容体遺伝子(Esr1)などのキスペプチンニューロンに特徴的に発現する遺伝子群の発現を指標とし絞り込みを行った。その結果、有力なARC 候補株として rR49、rR60 株を、AVPV 候補株として rV7、rV73、rV79 を得た。さらに、ARC候補株rR49に、キスペプチン、NKB、Dynが発現することを免疫組織化学により確かめた。その後、本株のE2 添加による Kiss1 発現量の変化を解析した所、E2による有意な変化は得られなかった。In vivo実験:性成熟前ラットを用いて、E2依存性にKiss1発現が抑制されることを明らにした。一方で、NKBおよびDyn遺伝子については、性成熟前後で大きな違いは認められなかった。このことから、性成熟前にはKiss1特異的にE2が発現抑制効果を有することを明らかにした
2: おおむね順調に進展している
In vitro実験:エストロゲンによるキスペプチン遺伝子発現制御(正および負のフィードバック)の分子機構を明らかにするためのツールとして、当初の目的のとおり、有力な不死化細胞培養株を得た。一方で、最有力株を用いてエストロゲン添加実験をした結果、予想と異なり、残念ながら、ARCあるいはAVPV由来不死化株で、キスペプチン遺伝子発現が、抑制(ARC)あるいは促進(AVPV)されなかったため、現在進行形で、新たな他の候補株により同様の実験を実施している。In vivo実験:性成熟前のラットを用いて、E2依存性にキスペプチン遺伝子発現が抑制されることを明らにした。一方で、NKBおよびDyn遺伝子については、性成熟前後でそれら遺伝子発現に大きな違いは認められなかった。このことから、性成熟前にはキスペプチン遺伝子特異的にE2が発現抑制効果を有することを明らかにした。また、昨年度までに得た、Kiss1発現制御に関わる可能性が高い転写因子群のsiRNA投与実験の為の、脳手術の実験計画もたてつつあり、総合として、概ね順調に進展していると自己評価できる。
本研究で有力株のE2 添加による Kiss1 発現量の変化を解析したところ、残念ながらE2による有意な変化を得ることができなかったため、これまで得られた別の候補株のリアルタイムPCR結果を精査し、同様の手法を用いて、新たな有力候補株を検索中である。すでに候補株を複数有しているので、次年度中には、有力な株を得、次段階に進めると考えている。また、可視化キスペプチンニューロンのトランスクリプトーム解析結果を精査し、ARCあるいはAVPV特異的にKiss1発現制御に関わる可能性が高い転写因子群を既にリスト化したので、これら転写因子の発現抑制をin vivoで確認するための準備を進めている。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件)
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