研究課題
①平成27年度は、98件3,205頭の牛白血病ウイルス感染(BLV)診断を行い、新規導入牛の決定、着地検査、感染牛の分離飼育、優先淘汰および感染牛産子の早期感染診断などに活用した。7モデル牧場中、A牧場においては、黒毛和種249頭中96頭が感染していた(陽性率38.5%)。感染牛24頭は、極めてウイルス量が高く、発症リスクが高いことが判明し、生産性を考慮した淘汰更新を進めた。②BLV感染が生産性に影響を与えるかは不明である。そこで、病態別に免疫学的解析を行った。その結果、病態が進んだ持続性リンパ球増多症を呈するウシは、制御性T細胞数が増加しTGF-βを産生していた。TGF-β産生制御性T細胞数は、リンパ球数およびプロウイルス量と正の相関を示した。TGF-βはCD4+T細胞からの抗ウイルスサイトカイン産生およびNK細胞の細胞傷害活性を著しく低下させた。このことから、BLV感染は制御性T細胞を介した細胞性免疫の抑制によって牛白血病の病態進行のみならず日和見感染症への感受性も高めることで生産性に影響を及ぼしている可能性が示唆された。③近年、若齢での牛白血病の発生が増加していることから、若齢型白血病がBLVに起因するものか、フローサイトメトリー法による解析を行った。腫瘍発症例12症例中11症例がBLVに感染していたが、3症例は散発型、6症例が地方病型と診断された(2症例は不明)。地方病型のうち1症例は、黒毛和種の7ヶ月齢で、末梢リンパ球数 が322,800/μl、97.9%がgp51分子を発現するCD5+IgM+細胞で構成されていた。腫瘍部もCD5+IgM+細胞で構成されておりプロウイルス量も高かった。母牛からもBLVが検出されたが、リンパ球増多を呈していたが発症しておらず本症例との因果関係は不明であった。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度も引き続きモデル農場で牛白血病ウイルス感染診断を実施した。さらに陽性牛と陰性牛の分離飼育や各種対策を行い、陰性牛の陽転率をモニターすることでウイルス伝播のリスク解析を行った。モデル農場ではパスチャライザーによる哺乳殺菌の有効性は再現性が得られた。一方、モデル農場では、夏に陽転例が多く、冬は少なかったことから昆虫類による水平感染が示唆された。これまでにも昆虫類による水平感染が多く認められているため、防虫対策を行った結果、陽転率を抑えることに成功した。現在、防虫ネットを使った対策も実施中である。引き続き預託放牧後の着地検査を行った結果、新規感染が認められ預託放牧等時の混合飼育による感染伝播リスクが高いことが改めて確認された。
H27年度の調査によって、ウイルス量が多くリンパ球増多症を呈するBLV感染牛では、TGF-β産生制御性T細胞が増加し、抗ウイルス免疫のみならず自然免疫も抑制されていることが確認された。このことはBLV感染により日和見感染症への感受性が高まり、乳房炎や肺炎等を誘発することで生産性に影響を及ぼしている可能性を示唆している。今後も本感染症がもたらす生産性や免疫状態への影響を引き続き解析していきたい。これまでの調査からリンパ球増多症を呈するBLV感染牛は発症リスクが高いことに加え、産子の胎盤感染および産道感染による垂直感染が多いこと、生産性が低下し、傷病率や他の疾病による死亡廃用率が極めて高いことを確認している。今年度得られた日和見感染症への感受性の増加も考慮し、今後もリンパ球やウイルス量を基準とした総合的な判断による清浄化対策を行っていきたい。
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