研究課題
本研究では栄養膜幹細胞(TS細胞)における新規ヒストンGlcNAc修飾(H2AS40Gc)のゲノム上の標的領域および機能を明らかにすることを目的としている。本年度は以下に記すH2AS40Gcの特徴が明らかになった。(1)TS細胞においてH2AS40Gcの標的の約50%は遺伝子領域に存在し、特にエクソンに豊富であることが明らかとなってきた。(2)TS細胞での解析結果より、H2AS40Gc標的が普遍的であるのかを確認する必要が生じた。そこでマウス胚性幹細胞(ES細胞)の解析を追加した。その結果、ES細胞でもH2AS40Gc標的は遺伝子領域に豊富で、エクソンへの偏りをもって存在していることが確認された。これは予想外の結果であった。遺伝子領域に豊富なヒストン修飾としてH3K36メチル化が知られている。(3)幸いにES細胞では既存のヒストン修飾情報は蓄積しており、H3K36メチル化情報が報告されている(TS細胞での報告は無い)。そこで、ES細胞で得られたH2AS40Gc情報を既知のヒストン修飾情報と比較解析した。その結果、約50%のH2AS40GcはH3K36メチル化とオーバーラップしていた。また驚いたことに、γH2AXおよびアセチル化H2AZと標的を共有していることが判明した。H2AXおよびH2AZはゲノム修復機能を有するヒストンバリアントである。従って、H2AS40Gcはゲノム修復能を有する可能性が浮上してきた。(4)ES細胞を用いてトポイソメラーゼ阻害剤処理でゲノムダメージを誘導するとH2AS40Gc化が増加することが明らかになった。(5)本研究で明らかになったH2AのGlcNAc化は一部のH2Aサブタイプに限られていた。GlcNAc化されうる40番目のSer(Ser40)をゲノム情報データベースで確認すると、Ser40を有するヒストンH2Aは哺乳類特有であることが判明した。
1: 当初の計画以上に進展している
データの蓄積で浮上してきた予想外の展開は、(1)H2AS40Gcがゲノム修復に関与する可能性と、(2)H2AS40Gcが哺乳類特有であるらしいことである。これまでに13のヒストンGlcNAc修飾が報告されているが、H2AS40Gcは哺乳類の進化に伴い獲得された新たなヒストン修飾であるとすれば、MS解析やGlcNAcを認識する非特異抗体でH2AS40Gcが検出されなかったのか納得がゆく。つまり、Ser40を有するH2A自体が限られており、既知のヒストン修飾と比べてH2ASer40のGlcNAc修飾の総量が少ないのである。さらにH2AS40Gcの興味深い点は、Ser40がL1領域に存在することである。L1はH2A, H2B, H3, H4からなる4量体ヒストンが2つ集まり、ヒストン8量体を形成するとき、H2A同士の会合する位置にある。するとH2AS40がGlcNAc化されるか否かで、ヌクレソームの構造が変わる可能性が生じる。さらに哺乳類ではSer40以外に、Ala40を有するH2Aが存在する。実は生物の有するH2Aの殆どはAla40タイプで、Ser40は哺乳類特有であることが判明した。ヌクレソームの多様性は、H2ASer40のGlcNAcの有無による違いに加え、H2AAla40との組合せも生じることになる。哺乳類ではヌクレソームの多様性が飛躍的に増すことになる。このように特徴的なH2AS40Gcがゲノム修復能を持つとすれば大変である。広く生物界でゲノム修復に関わること知られているDNA photolyaseは哺乳類では変異により機能を失っていることが知られているからである。哺乳類でH2AS40Gcが獲得されたことはDNA photolyaseを補っているのかもしれない。以上、初年度から順調に実験が行われ、当初の目的どおりの進捗状況にあるが、さらなる発見が見込まれることになった。
ゲノム全域のH2AS40Gc標的解析結果からH2AS40GcはγH2AXの分布と重なる領域が検出された。その場合、H2AS40Gc機能はゲノム修復にも関わる可能性が生じた。全くの予想外の展開で、今後は機能解析を中心にした研究計画を立てる。
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巻: 2015:876047 ページ: -
10.1155/2015/876047
Curr Protoc Stem Cell Biol
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10.1002/9780470151808.sc01e04s32