研究課題/領域番号 |
26252058
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
橋床 泰之 北海道大学, 農学研究院, 教授 (40281795)
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研究分担者 |
村井 勇太 北海道大学, 先端生命科学研究院, 助教 (20707038)
内田 義崇 北海道大学, 農学研究院, 助教 (70705251)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 遺伝子水平伝播 / N2Oホットスポット / 脱窒関連遺伝子 / Serratia / 植物色素 / パラコート処理 / コンピテントセル化 / 好中温性古細菌AOA |
研究実績の概要 |
亜酸化窒素(N2O)放出ホットスポットとして知られ,凍土融解沈降によるシステム崩壊を起こしている亜北極ツンドラ・パルサ湿原から泥炭土壌分解物を採取し,N2O放出真正細菌の探索とそれらの遺伝子水平伝播の有無を調べた。このホットスポットから最も強力なN2O放出細菌として分離したAgrobacterium属細菌の硝酸還元酵素大サブユニットタンパクの遺伝子narG配列は,Gammaproteobacteria綱Serratia属のものと極めて高い相同性を示した。従って,亜北極ツンドラN2Oホットスポットで,遺伝子水平伝播の証拠が初めて見つかった。Serratia属脱窒細菌は,我々の研究室で既に弱いN2O放出細菌として分離しており,遺伝子水平伝播の再現実験などを行うためのツールがそろった。また,北海道コーン畑の黒ボク土壌からN2O放出細菌の分離とその遺伝子水平伝播の有無を検証した。また,畑地土壌塊であっても農薬による脱窒反応停止とN2O放出抑制が可能か否かを調べた。コーン畑圃場でN2O放出に関わる細菌として比較的培養困難なBetaproteobacteria綱Duganella属細菌を特定した。この細菌は自前の脱窒関連遺伝子を有しており,土壌では優占種として窒素循環に大きく寄与している様に思われた。一方,N2Oの基質となり得るNO3-イオンを土中で生じるAOAを,16S rRNA遺伝子のハイスループット法による網羅的解析で精査し,有機物量の少ない鉱物性B層土壌や火山性砂礫土壌でThaumarchaeota門のAOAが広く棲息していることが分かった。さらに多くの細菌で,形態分化時や特殊環境下で他の細菌と濃密なコンソーシアムを形成したり,細胞壁を物質が透過しやすいコンピテント化することが分かった。植物色素や鉄キレート剤,電子伝達阻害系除草剤などの効果を調べ,今後の展開に繋がる知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
亜北極ツンドラの凍土融解による沈降と湿原系の崩壊を起こしているN2Oホットスポットから,脱窒関連遺伝子の水平伝播の証拠をつかんだため,このAgrobacterium-Serratiaをモデル細菌系とした,遺伝子水平伝播メカニズム解析の資材が熱帯泥炭開墾地,温帯黒ボク土壌畑地,亜北極ツンドラ泥炭地すべてでそろった。地球規模での環境変動や攪乱は細菌群集の遺伝子水平伝播を加速するという仮説を,緯度の大きく異なる3地点のN2O放出ホットスポットで検証することが可能になったその意義は極めて大きい。北海道コーン畑の黒ボク土壌のN2O放出細菌として分離したDuganella 属細菌は,増殖の遅いoligotrophic bacteriaとしては初めての報告になる。一方,好中温性Thaumarchaeota門のAOAが北方森林B層土壌に普遍的に棲息していることを次世代シーケンサーによる古細菌相解析で明らかにした。これまで土壌でもあまり注目されなかったB層で,N2Oの基質となるNO3-が供給されうることが示された。これらを総合的に俯瞰すると,研究の主目的である元素循環関連遺伝子の水平伝播と未知の無機窒素代謝・窒素循環の追跡を実施するために十分な要件を揃えることができた。また,化学物質によるN2O抑制試験を土壌そのもので行い,パラコートがN2O生成を効率よく抑制した。
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今後の研究の推進方策 |
N2O放出ホットスポットとして知られる,システム崩壊を起こしている亜北極ツンドラ・パルサ湿原からN2O放出真正細菌およびそれらの脱窒関連遺伝子ドナーの再現性をみるととも,その遺伝子水平伝播プロセスを追跡する。また,北海道黒ボク畑地土壌から得たN2O放出性Duganella属細菌の脱窒機能をそのゲノム構造をもとに詳細に解析する。特に,黒ボク土壌での増殖・消長が激しいPseudomonas属脱窒細菌やBurkholderia属脱窒細菌との遺伝子交換の可能性を検討する。この土壌塊にパラコートを終濃度50 マイクロモル濃度で添加するとN2O放出が完全に停止し,アリルイソチオシアネート処理ではN2O放出が亢進したため,これらの薬剤添加によって土壌菌相の変動と硝酸塩呼吸回復の有無についても検討する。化学物質の面では,Bacillus属細菌がdiacetonamine誘導体による芽胞形成時にコンピテント・セルへの分化を起こすこと,さらにはAI-2生成能を欠く5DHα(LuxS-)株がBurkholderia属細菌を受け入れ,完全な混合バイオフィルムを形成することなど,興味ある挙動を示すことが分かった。これらは,活発な遺伝子水平伝播に必要な二者間インターフェース環境形成に関わる可能性があるため,この状況下で遺伝子水平伝播が起こり得るか否かを検証する。また,アンモニア硝化に関わる好中温性古細菌AOAを,北方森林・林床土壌B層に高密度で見出したため,これがアンモニア酸化や窒素循環に関わるか否かを検証できる培養系構築に挑む。一方,遺伝子水平伝播によって脱窒能を獲得した細菌が植物とどのように関わりを持つかについても調べ,特に蘚類である赤色陸生ミズゴケの赤色色素やレクチンタンパク質,さらには中心子目植物のベタニン色素とN2O放出との関係を検証し,膜機能の改変等に関わるか否かを精査する。
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備考 |
日本土壌肥料学会での立花の研究発表は優秀ポスター賞を,植物化学調節学会での西塚の研究発表は優秀発表賞をそれぞれ受賞した。
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