研究実績の概要 |
フィンランド,キルピスヤビ南方のパルサ湿原地盤沈降崩壊地3地点,計14箇所で採取したミズゴケや泥炭から、その組織片(1 cm長)を任意に採り、5 mM KNO3溶液1 mLおよび終濃度0.5%でスクロースを添加したWinogradsky’s-ジェランガムソフトゲル培地に接種した。これらのうち,比較的高いN2O放出を示した6培養物を滅菌水で1000倍希釈後MWG (0.005% yeast extract添加WG) 平板に広げ、出現した出現頻度の高いコロニー14株を分離し,それぞれECD-ガスクロマトグラフィー定量によるN2O放出試験にかけ、N2O高放出株の検索を試みた。その結果、1つのコロニーが突出して高いN2O放出コローニーを見出したが,これはRhizobium属細菌とSerratia属細菌の混合体であることが分かったため,これらを再分離し,両者ともに高N2O放出株であることを確認した。それぞれの分離細菌株について性状を調べた結果、両者ともN源を(NH4)2SO4とするとN2Oは放出せず、さらにKNO3よりもKNO2を効率的にN2O生成の基質として利用できることが分かった。また,pH 7.5-8.5の塩基性側で強いN2O放出能を認めた。Sellatia属はnarG, nirKを有していたが、Rhizobium属はこれら脱窒関連遺伝子を保持しておらず、Serratia属とRhizobium属分離株はそれぞれに欠けている無機窒素代謝機能を相補しあっていることが強く示唆された。一方,不完全脱窒細菌のN2O放出に対する影響を調べるため,多様な細菌に対する分化誘導因子を検索し,Bacillus属細菌の芽胞形成誘導物質としてdiacetonamine,Nostoc sp.のホルモゴニア誘導因子としてanacardic acid C15:Δ8 decyl ester,同じくソテツのホルモゴニア誘導因子として(3"-8)-diapigenin,ならびにBurkholderia plantariiのautoregulation signalとして働くtropoloneの代謝亢進物質として3'-hydroxyoctyl-N-acyl-L-homoserinelactoneを同定した。今後,これらがN2O産生に抑制的に働くか否かを試験する。
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