研究課題
水田は強い温室効果をもつメタン(CH4)の発生源である.水田のCH4動態は地球システムの炭素循環と気候に影響を及ぼし,二酸化炭素(CO2)の大気濃度の増加や昇温は水田のCH4発生を促して気候変動を助長する.CH4発生は水田の炭素循環の一つの過程であり,その炭素循環はイネに対する窒素可給性の影響を強く受けると考えられる.本研究の目的は,気候変動下の水田のCH4発生削減に繋がる機作とその窒素条件の解明である.このために,平成26年度は主にポット試験および作物生産モデルの検証を行った.ポット試験は窒素条件(窒素施肥なし,標準窒素施肥)およびイネ品種(コシヒカリ,タカナリ)の組み合わせで実施した.また無植栽ポットも設けることで,施肥ありイネなし,施肥なしイネあり,および施肥・イネなしの3通りの対照を用意した.主な調査項目は土壌とイネの窒素収支,イネの部位別バイオマス,土壌溶液溶存CH4濃度,および溶存アンモニア態窒素濃度とした.窒素収支に関するデータは解析中であるが,主な結果として,窒素施肥の有無によりバイオマスには15倍程度の差が生じたこと(元の土壌が貧栄養であったと解釈),コシヒカリに比べてタカナリは根のバイオマスが多いこと,窒素施肥なしのポットでは溶存CH4がごく低濃度で推移したことなどが挙げられる.作物生産モデルについては,主にコシヒカリとタカナリの品種間差を表現するための検証とモデルの改良を行った.タカナリの特徴として,高CO2処理により窒素吸収が増えること,また,穂と根への窒素配分が多い一方で葉への分配は少ないことが見出され,少なくとも穂が窒素の強力なシンクであること,また,大きな根域で窒素を獲得していることの2点をモデルに導入する必要があることがわかった.
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は開放系二酸化炭素増加実験(FACE)水田における試験よりもポット試験による窒素収支・分配のイネ品種間差を明らかにする方針に切り換え,また,これまで既往データの解析により作物生産モデルの改良点を見い出すことに集中し,一定の成果を挙げることができた.
平成26年度のポット試験およびモデル検証・改良の成果を活用し,平成27年度はFACE水田においてフィールドレベルの窒素動態・収支の品種間差を明らかにするための重窒素標識実験を行うとともに,CH4の生成と酸化を分離して定量することにより水田のCH4動態を本質的に解明するためのメタン酸化阻害剤添加実験を行い,また,作物生産モデルについても実データ用いた検証を交えつつ,他のモデルとの比較検討を通じて更なる改良を行う.
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Soil Science and Plant Nutrition
巻: 61 ページ: 2-33
10.1080/00380768.2014.994469
Frontiers in Microbiology
巻: 6, Article 136 ページ: 1-8
10.3389/fmicb.2015.00136
Microbes and Environments
巻: 30 ページ: 51-62
10.1264/jsme2.ME14117
Rapid Communications in Mass Spectrometry
巻: 28 ページ: 2315-2324
10.1002/rcm.7016
日本土壌肥料学雑誌
巻: 85 ページ: 269-274
Plant and Cell Physiology
巻: 55 ページ: 1582-1591
10.1093/pcp/pcu088
巻: 29 ページ: 184-190
10.1264/jsme2.ME14011
http://www.niaes.affrc.go.jp/outline/face/index.html