研究課題/領域番号 |
26252064
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
内田 隆史 東北大学, 農学研究科, 教授 (80312239)
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研究分担者 |
内田 千代子 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (80312776)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | プロリン異性化酵素 / Pin1 / 加齢疾患 / 癌 / 骨粗鬆症 / 肥満 / 微小管 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでにPin1の癌発症における機能については特に精力的に研究を行ってきており、国際的な共同研究も以前から複数進めている。今年度、癌関連で、2つの新しいPin1の機能を解明することができた。第一に、中国南部や東南アジアで多くみられる癌の鼻咽腔癌の発症における役割である。鼻咽腔癌では、Activating Transcription Factor 1(ATF1)の発現が増加していることが分かっていた。我々はPin1がATF1のリン酸化Thr184-Proに結合しATF1を安定化させることで、Bcl-2などのATF1により転写制御されている遺伝子の転写を促進し、癌を発症させることを明らかにした(中国広東医科大学との共同研究。Cell Death Dis)。第二に、髄芽腫においてはPin1の欠損が癌の発症を抑制すること、またその分子機構としてヘッジホッグシグナル伝達機構の転写因子であるGli1の安定性をPin1が増加させることが原因であることを解明した(米国ミシガン大学との共同研究。Neoplasia)。これらの結果はPin1の阻害剤が鼻咽腔癌や髄芽腫などの難治性の癌の治療に有効であることを示している。また、我々は、Pin1の阻害剤が脂肪細胞の前駆細胞の脂肪細胞への分化を抑制することを見出していたので、実際にマウスへの経口投与実験を行った。マウスは高脂肪食を摂取させると肥満になり、血中のコレステロール値などの糖尿病の指標も上昇するが、褐藻類抽出物を同時に摂取させると脂肪量が低下し、また糖尿病の指標値も普通食摂取と同程度になった。これらの結果は、褐藻類抽出物が代謝疾患の予防や治療に有効であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.Pin1欠損マウスに関する研究は以前から行ってきた共同研究の成果が癌研究の分野で継続的に出ており、注目度が高い雑誌に論文が掲載されている。 2.我々が発見したPin1の阻害剤である褐藻類ポリフェノールが細胞で効果があるだけでなく、マウスでも効果があることを示すことができた。今回は脂肪細胞数の増加抑制を検出したが、今後は癌の予防、治療の効果に関しても検討されると期待できる。 3.生殖細胞(精子、卵子)の分化、増殖におけるPin1の機能について分子レベルはまだ未解明であるが細胞レベルでは解明しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、p57とPin1のダブル欠損マウスを解析し骨粗鬆症との関連についての研究を進めたので、本年度はこれら両分子の関連性について解析する。まず、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化過程でp57の発現をPin1が制御していることを明らかにする。また、p57・Pin1ダブル欠損マウスの表現型について骨、軟骨の解析を詳細に行う。幹細胞に関しては精子幹細胞の増植にPin1が必要である事を明らかにしたので、分子メカニズムを明らかにする。特に、Notchシグナルの活性化に着目して研究する。受精卵の分化に関してもPin1が必要である事を見いだし、細胞周期M期の進行にPin1が関与していることは見出しているが、そのターゲットとなるリン酸化分子については不明であるのでこれを解明する。Par14を欠損させた細胞では細胞周期M期の進行が速まることをみいだしたので、この分子機構を解明する。現在、Par14/Par17による微小管重合制御の可能性を考えている。この仮説が証明できれば、Pin1の多様な機能を微小管の重合制御活性化で統一的に説明できることになり期待が大きい。
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