研究課題
第一に、Pin1 -KOマウスでは野生型マウスに比べて巨核球数が減少していた。血液幹細胞から分化した巨核球細胞は、次に、いくつもの突起を形成するproplatelet(血小板前駆細胞)に分化し、1個の血小板前駆細胞から約1000個の血小板が産生する。巨核球が、突起を形成し血小板前駆細胞に分化するには微小管重合の促進が必要である。我々は、血小板前駆細胞ではタウが微小管重合を促進していることを解明した。さらにタウはリン酸化により活性を低下させるが、そのリン酸化タウの活性をPin1が回復させることで、Pin1は血小板前駆細胞の産生を制御し、最終的には血小板産生を制御していることを解明した(Shimizu (2017))。第二に、Pin1 -KOマウスでは野生型マウスに比べて精子数が早期に激減し不妊になるが、今回、Pin1が精子幹細胞の細胞周期M期の進行を促進することで、精子幹細胞の分化に必須であることを精子幹細胞特異的な抗GDNF family receptor α1抗体で免疫染色することで解明した(Kurita-Suzuki(2018))。第三に、Pin1の心臓疾患との関係の新たな分子機構を解明した。我々はこれまでに、Pin1が心臓疾患と関係していることを報告したが(Toko(2013))、今回、Pin1は、Ca2+のhandling proteinであるsarcoplasmic reticulum calcium ATPaseおよびNa2+/Ca2+ Exchanger 1 proteinの発現と機能を制御することで、心疾患の発症を制御していることを示した(Sacchi(2017))。
1: 当初の計画以上に進展している
Pin1の発現レベルが低下すると不妊になる理由が幹細胞の分化にPin1が関与してることがわかったので、発現レベルを上げることで不妊や再生医療に役立てられることが明らかになった。また、心疾患は、世界的に中高年の死亡に直接結びつく重要な疾患であるが、Pin1の発現レベルを測定することで、心疾患発症のリスクが分かることを明確にできた。最も驚くべき発見は、巨核球内にリン酸化タウが大量に存在することである。血小板と脳のリン酸化タウに相関があればアルツハイマー病の原因となるリン酸化タウを血液中の血小板で簡便に測定でき、アルツハイマー病の診断に役立てられる可能性を示すことができた。
Ca2+ので活性化されるキナーゼCaMKII (calcium/calmodulin-dependent protein kinase Ⅱ)は脳内で重要な機能を担う。Pin1によるCaMKⅡ活性の調節機能とアルツハイマー病やタウオパチーの関連について検討する。Pin1の発現レベルを上げることで幹細胞の分化を促進し、組織再生を促進することで再生医療に役立てられないかを検討する。血小板のPin1の活性または発現量を測定することで、アルツハイマー病などの神経変性疾患の診断や防御に役立てられないかを研究する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件)
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