研究課題
生物活性天然物からの医薬品としての合理的な開発は、現代科学における緊急課題である。分子量が500を超え酸素官能基が密集した巨大複雑天然物は、一般的な医薬品や天然物では実現不可能な、タンパク質の高選択的阻害・活性化を可能にする。本研究では、巨大複雑天然物に対して、革新的な収束的合成戦略を開発・適用し、全合成を達成する。平成26年度は、①ラジカルを利用した収束的合成戦略の開発を中心として研究を推進し、②巨大複雑天然物の全合成のために必要な部分構造の調製および鍵となる連結反応の最適化を行った。①ラジカルを利用した収束的合成戦略の開発すでに申請者は、ラジカル-極性交差反応による1工程での三成分連結反応の開発に成功している。しかし、ラジカル発生基質であるa-アルコキシテルリドの化学的不安定性が、本反応の一般性向上の障害となっていた。平成26年度は、より化学的に安定なa-アルコキシアシルテルリドおよびa-アミノキシアシルテルリドを新たに設計し、それらの優位性を明らかにした。さらに、開発した反応を、マンザシジンAの収束的全合成およびソロリアノリドの部分構造の合成に応用展開した。続いて、光を利用したラジカル分子間反応による炭素環修飾法の開発に取り組んだ。その結果、直接アルケニル化反応および直接不斉アルキニル化反応の開発に成功した。さらに、直接アルキニル化反応とNorrish-Yang光反応を創造的に組み合わせたラクタシスチンの効率的全合成を完成させた。②巨大複雑天然物の全合成本研究提案では、全合成が事実上不可能であった巨大複雑天然物群の超効率的構築を実現する。平成26年度は、リアノジン(Ca2+チャネル活性化作用)のテルペン部位であり、合成困難な巨大複雑型天然物の代表例であるリアノドールの全合成に成功した。続いて、4-ヒドロキシジノウォールの全合成にも世界で初めて成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
平成26年度は、前期の各課題に精力的に取り組み、大きく進展させることで、20報の学術論文を出版することができた。また、これらの研究成果は国内外から高い評価を得ており、Mukaiyama Awardおよび長瀬研究振興賞を受賞し、英国王立化学会フェローに選出されるに至った。①ラジカルを利用した収束的合成戦略の開発新たに設計したアシルテルリドを用いたラジカルー極性交差反応による3成分反応では、いままでの基質適用性を飛躍的に拡大することに成功した。これらの新規反応は、極めて多様な構造を有する巨大複雑天然物の全合成を単純化する新しい基盤技術となる重要なものであり、その有用性はマンザシジンの全合成などで有効に示した。さらに、光を利用したラジカル分子間反応による炭素環修飾法は、立体的に混んだ位置に、直接的に酸化度が高い炭素ユニットが導入できる点で、巨大複雑型天然物や医薬分子の合成を革新しうる。②巨大複雑天然物の全合成現在までに具現化した革新的な反応・戦略を応用し、極めて全合成困難なことで知られる巨大複雑天然物リアノドールおよび4-ヒドロキシジノウォールの全合成を終結させた。さらに、ペプチド系天然物であるライソシン・ノビラミドなどの全合成も完結し、論文を出版した。ここで開発した合成ルートは、極めて独創性が高く、先進性に富み、世界的に高く評価された。さらに、これらのルートは、天然物だけではなく、その構造を基盤とした新たな天然物を凌駕する機能をもつ分子創出へと有効に利用できる。以上のように、項目①および②の双方において、現在までに達成例がなかった課題を短期間で実現しており、全般的には当初の計画以上の達成がなされている。
①ラジカルを利用した収束的合成戦略の開発平成26年度までに、申請者は、C(sp3)-C(sp3)結合形成を伴う三成分連結ラジカル反応、三成分連結ラジカル-極性交差反応、C(sp3)-C(sp2)結合形成を伴う二成分連結ラジカル反応およびラジカル二量化反応を実現している。平成27年度は、特にラジカル二量化反応の一般性の拡大を遂行する。②巨大複雑天然物の全合成本研究提案では、酸素官能基を多数有する部分構造を収束的に連結できる上記の強力な新反応を創造的に組み合わせることによって、全合成が事実上不可能であった巨大複雑天然物群の超効率的構築を実現する。申請者が全合成標的とした巨大複雑天然物は、レジニフェラトキシン(鎮痛活性)、タキソール(抗癌活性)、アコニチン(電位依存性Na+チャネル活性化)、バトラコトキシン(電位依存性Na+チャネル活性化)およびヒキジマイシン(抗生物質)などを含む。平成26年度までに、それぞれの標的化合物に対する新反応の適用性の評価を終えている。平成27年度は、立体・化学選択性などを精査して、これら連結反応条件を最適化するだけでなく、それぞれの化合物の全合成ルートの開発を推進する。③天然・人工類縁体の合成研究申請者が標的としている巨大複雑天然物群には、それぞれ骨格を共通としながら酸素官能基の配置・立体化学などが異なる構造類縁天然物が多数存在し、多様かつ強力な生物活性を有する。従来法では、同じ分子骨格に対して官能基の置換パターンが異なるときは、まったく別の合成ルートの開発が必要だった。申請者の新合成戦略は、これら構造類縁体の統一的・網羅的全合成を可能とする。そこで項目②において全合成ルートを確立した天然物に対して、同じ収束的合成戦略を適用することで、構造類縁体の合成を検討する。
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