研究課題
申請者は最近、①イノシトールリン脂質群(PIPs)の高感度定量技術を独自に開発し、PIPsとして約20年ぶりの発見となる新規PIPsを見出した。また、②生成酵素は同定されながらも、実際に細胞内で検出されたことがなかったホスファチジルグリセロールリン酸(PGP)を蓄積する変異マウスの作出に成功した。これらの成果を展開し、新しい研究分野の開拓と医薬開発の礎となる知見を、世界に先駆けて得る。①新規PIPs研究開始時までに見出していた新規PIPsについては、化合物の合成を試みているが成功しておらず、大きな進展が得られなかった。一方、昨年度の研究で3種類の新規PIPsを同定することに成功した。このうちの1種類(以下nPIP1)については、マウス病態組織内レベルの解析の結果、前立腺癌において有為に上昇することが明らかになった。さらに、興味深いことに、nPIP1は生体試料の有機溶媒を用いた二層分離において、有機層のみならず水層にも分配されることに気付き、実際に、マウス血漿中に存在することを見出した。このことは、従来細胞内のシグナル伝達脂質と認識されてきたPIPsの細胞外機能を示唆するもので、画期的な意義をもつ。nPIP1については、収率は低いものの、化学合成法を確立に成功しており、最適化を進めているところである。②PGP結合タンパク質については、特異的なものを見出すことはできなかった。代謝酵素については、試験管内でPGPを分解する酵素(PLIP以外の酵素)を複数同定したが、培養細胞におけるそれらの発現抑制は、PGPレベルを上昇させることはなかった。PLIP発現抑制によるPGP蓄積を、候補遺伝子の過剰発現が抑制するか否かを検討中である。生理機能については、PGP蓄積に伴う血中IGF-1の減少は遺伝子発現レベルでは説明できず、分泌過程の異常によるものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
これまでに新規のリン脂質を4種類発見した点、PIPsの細胞外機能という予期せぬブレークスルーを得た点は当初の計画以上の進展である一方、化学合成が遅れている点、PGPの特異的結合タンパク質を同定できなかった点は当初の計画通りの進展が得られていないため。
最終年度にあたり、実施可能な実験にフォーカスを絞る必要がある。具体的には、27年度に発見し、化学合成の端緒もつかんでいる新規リン脂質の解析に特に重きを置き、特許申請と論文による公表を進める。
すべて 2015 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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http://www.med.akita-u.ac.jp/~bisei/