研究課題
脂質代謝は、動脈硬化症などの脂質異常症と深く関わり、生活習慣病の重要な病因因子として捉えられている。本研究では、1) 我々が構築したこれら疾患の予防治療薬を想定した独創的な評価系を用いて、特に、体内に蓄積するコレステリルエステル(CE)とトリグリセリド(TG)の代謝を制御する機能分子の開拓、2) これまでに発見した脂質代謝を制御する機能分子の作用機序の解明、3) 画期的な新薬への発展が期待されているピリピロペンA (PPPA) をリードとした創薬のための基盤研究を展開している。1) 微生物資源を用いた細胞内中性脂質蓄積制御分子の開拓:我々の研究室で供給される約2000株の微生物培養液サンプルを評価した結果、3種の新規制御分子 (バフィロマイシン L、デプシドン骨格を有する化合物、ピペラジン骨格を有する化合物)を発見し、さらに、生化学的手法を用いて、その作用機序を明らかにした。2) 脂質代謝制御分子の作用機序解明:マクロファージ脂肪滴蓄積阻害剤ボーベリオライドIII (BVIII) は、小胞体膜に局在する2種のステロール O-アシル転移酵素 (SOAT) アイソザイムのうち、細胞レベルではSOAT1を選択的に阻害し、酵素レベルではSOAT1とSOAT2の両方を阻害する。この阻害の選択性の違いを明らかにするために、酵素の調製方法やセミインタクト細胞を用いて検討した結果、小胞体膜でのSOATアイソザイムの高次構造の保持が重要であることが示唆された。3) PPPA に関する研究:動脈硬化発症モデルマウスを用いて、ピリピロペン誘導体(PRD)の薬理効果を評価した結果、PRD125が、PPPAより低用量で目的の薬理作用を示し、さらに、臨床で実際に用いられている小腸からのコレステロール吸収阻害薬エゼチミブと同等の脂質低下作用及び抗動脈硬化作用を示すことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
微生物資源を対象に脂質代謝制御剤をスクリーニングした結果、3種の新規制御分子と既知化合物だったが新しく細胞内のCE蓄積を特異的に阻害することを明らかにした 1 種の制御分子を発見した。そのうちの1つであるバフィロマイシンLは、詳細な作用機序解析を進めたところ、液胞型H-ATPaseを阻害することでリソソーム内でのコレステロール輸送を特異的に阻害していることを明らかにした。また、他の3種の制御分子については、CEの最終生成酵素であるSOATを阻害することで、細胞内のCE蓄積を特異的に阻害していることを明らかにした。また、細胞内TG蓄積阻害剤ダイナピノンAについては、結合タンパク質の網羅的解析ツールとして、ビオチン誘導体の創製に成功した。画期的な新薬への発展が期待されているPPPAについては、優れたSOAT2選択性を示すPRDの創製に成功した。現在、PPPAの骨格を簡略化した低分子型誘導体については、合成、in vitro 評価を進めている。
今後も引き続き、細胞レベル及び酵素レベルでの脂質代謝に焦点を当てた独自の評価系を用いて、微生物資源を対象とした脂質代謝を制御し得る機能分子の探索、およびその作用機序の解析を実施する。1) 脂質代謝を制御する機能分子の探索:本研究で構築した脂肪肝の病態を模倣した細胞レベルでの評価系に加え、動脈硬化初期病巣病変を模倣した初代培養マクロファージを用いた評価系や動物細胞内の中性脂質(CEとTG)の蓄積を観察する評価系などこれまで我々が展開してきた独創的な評価系を用いて、微生物資源(年間約2000株ぐらい)を対象に脂質代謝を制御する機能分子の探索を行なう。選択された株の培養液は、新規性の高い代謝産物を含む培養液を効率よく選別し、目的の活性物質の単離精製、構造決定を行ない、新しい機能分子を検索する。2) 脂質代謝を制御する機能分子の作用機構の解明:動物細胞内のTG蓄積を阻害するダイナピノンAとCE蓄積を阻害するボーベリオライドを中心に進める。3) PPPA に関する研究:これまで、ピリピロペンAとその誘導体PRDについては、脂質低下作用と抗動脈硬化作用に対する有用性を動物レベルで証明してきた。さらに、動脈硬化や脂質異常症の患者の病態を想定したモデル動物での検討を進める。
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