研究課題/領域番号 |
26253009
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
供田 洋 北里大学, 薬学部, 教授 (70164043)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脂質代謝 / 動脈硬化 / 脂肪肝 / 機能分子 / 微生物資源 |
研究実績の概要 |
脂質代謝は、動脈硬化症、肥満、脂肪肝などの脂質異常症と深く関わり、生活習慣病として捉えられ、重要な病因として捉えられている。本研究では、1) 申請者が構築した疾患の予防治療薬を想定した独創的な評価系を用いて、脂質代謝、特に、体内に蓄積するコレステリルエステル(CE)とトリグリセリド(TG)の代謝を制御する機能分子の開拓、2) これまでに発見した制御分子の作用機序の解明、3) 画期的な新薬への発展が期待されているピリピロペンA(PPPA)をリードとした創薬のための基盤研究を展開している。 1) 微生物資源を用いた細胞内中性脂質蓄積制御分子の開拓:我々の研究室で供給される約2000株の微生物培養液サンプルを評価した結果、細胞内のCE蓄積を特異的に阻害する3種の新規制御分子 (脂肪酸誘導体、ジケトピペラジン化合物、ベンゾフェノン骨格を有する化合物)と、既知化合物だったが細胞内のTG蓄積を阻害する制御分子(オーレオリン酸誘導体)を発見した。 2) 脂質代謝を制御する機能分子の作用機構の解明:平成27年度は、細胞内TG蓄積阻害剤ダイナピノンA(DPA)について、精力的に検討した。その結果、脂肪滴(TGが蓄積する細胞小器官)の細胞内分解経路に深く関与しているオートファジーに影響を与えることが明らかとなった。また、マイクロアレイによる遺伝子の網羅的解析の過程で、細胞毒性を全く示さない濃度で、28S rRNAのみ消失(分解)していることを見いだした。現在、TG蓄積阻害活性とオートファジーや28S rRNAの特異的分解との関連性を、さらに検討している。 3) PPPAに関する研究: これまで、PPPAとその誘導体PRDについては、脂質低下作用と抗動脈硬化作用に対する有用性を動物レベルで証明してきた。そこで、平成27年度は、より動脈硬化患者の病態を想定したモデル動物の評価系での検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微生物資源を対象に脂質代謝制御剤をスクリーニングした結果、細胞内CE蓄積を阻害する3種の新規制御分子と既知化合物だったが新しく細胞内のTG蓄積を阻害する 1 種の制御分子を発見した。特に、TG蓄積を阻害する制御分子は、評価する細胞種によって、TG蓄積の阻害パターンが大きく異なるという興味深い活性を示した。現在、その作用機序解析も進めている。 DPAの作用機序解析を進めている過程で、新たに、オートファジーに対する影響とrRNAに対する影響を見いだした。現在は、細胞内TG蓄積阻害との関連性を検討している。 PPPAより優れた薬理効果を示したPRDに関しては、より動脈硬化患者の病態を想定したモデル動物の評価系での検討を進め、動脈硬化進展を強力に抑えていること明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、細胞レベル及び酵素レベルでの脂質代謝に焦点を当てた独自の評価系を用いて、微生物資源を対象とした脂質代謝を制御し得る機能分子の探索、およびその作用機序の解析を実施する。 1) 脂質代謝を制御する機能分子の探索:本研究で構築した脂肪肝の病態を模倣した細胞レベルでの評価系に加え、動脈硬化初期病巣病変を模倣した初代培養マクロファージを用いた評価系や動物細胞内の中性脂質(CEとTG)の蓄積を観察する評価系などこれまで我々が展開してきた独創的な評価系を用いて、微生物資源(年間約2000株ぐらい)を対象に脂質代謝を制御する機能分子の探索を行なう。さらに、肥満治療を想定した細胞及び酵素評価系を構築する。選択された株の培養液は、LC-MS/MSによるモルキュラーネットワーク解析を行ない、新規性の高い代謝産物を含む培養液を効率よく選別し、目的の活性物質の単離精製、構造決定を行ない、新しい機能分子を検索する。 2) 脂質代謝を制御する機能分子の作用機構の解明:動物細胞内のTG蓄積を阻害するDPAとCE蓄積を阻害するボーベリオライドに焦点を当てる。すなわち、蛍光やビオチンによる標識体を用いて結合タンパク質の検索、標識体を用いた細胞内局在の解析を進める。また、LC-MS/MSによる細胞内脂質のプロファイルを網羅的な解析し、標的分子を明らかにする。 3) PPPAに関する研究:これまで、PPPAとその誘導体PRDについては、脂質低下作用と抗動脈硬化作用に対する有用性を動物レベルで証明してきた。その過程で、脂肪肝に対する予防治療の可能性を示唆するデータを確認した。そこで、疾患発症モデル動物を用いてピリピロペン誘導体PRDを評価し、脂肪肝や脂肪肝炎に対するステロールO-アシル転移酵素(SOAT2)の有用性を証明する。さらに、低分子化誘導体についても、その薬理効果を評価する。
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