研究課題
脂質代謝は、動脈硬化症や脂肪肝などの脂質異常症と深く関わり、生活習慣病として捉えられ、重要な病因として捉えられている。本研究では、1) 申請者が構築した疾患の予防治療薬を想定した独創的な評価系を用いて、脂質代謝、特に、細胞内に蓄積するコレステリルエステル(CE)とトリグリセリド(TG)の代謝を制御する機能分子の開拓、2) これまでに発見した制御分子の作用機序や生合成の解明、3) 画期的な新薬への発展が期待されているピリピロペンA(PPPA)をリードとした創薬のための基盤研究を展開している。1) 微生物資源を用いた細胞内中性脂質蓄積制御分子の開拓:微生物培養液サンプルなどを評価した結果、細胞内のCE蓄積を特異的に阻害する4種の新規制御分子 (celludinone類など)を発見した。中でも、celludinone A はキラルカラムでA1成分とA2成分に分離でき、ラセミ体であった。2) 脂質代謝を制御する機能分子の作用機構や生合成経路の解明:平成29年度は、真菌Talaromyces pinophilus FKI-3864 株から発見した三環性ナフトピラノン骨格を有するモナピノンA (MPA)を位置選択的に二量体化し、ビアリル型軸異性体ダイナピノンA (DPA) を生成するモナピノン二量体化酵素 (MCE) について研究をすすめた。その結果、MCEはマルチカッパーオキシダーゼ (MCO)グループに属するが、一般的なMCOとは異なる特性を示した。3) PPPAに関する研究: これまで、PPPA誘導体PRDについては、脂質低下作用と抗動脈硬化作用の他に、ラビットを用いた動物実験で新しく脂肪肝進展抑制作用を動物レベルで確認した。そこで、脂肪肝(NAFLD)や脂肪肝炎(NASH)に対する疾患モデルマウスを用いて、PRDの薬効評価を進めている。
2: おおむね順調に進展している
微生物資源を対象に脂質代謝制御剤をスクリーニングした結果、celludinone類など4種の新規脂質代謝制御分子を発見し、その標的分子としてCEの最終生合成酵素SOATを阻害することを明らかにした。MCEに関する研究を進めている過程で、MCEは、他の MCOと異なり、基質として MPA 及び MPEを厳格に認識し、位置選択的にフェノール間で二量体化を生成する新しいタイプの MCO であった。脂肪肝進展抑制作用を示すPRDに関しては、脂肪肝/脂肪肝炎発症モデルマウスを用いて評価を進めている。
今後も引き続き、細胞レベルでの脂質代謝に焦点を当てた独自の評価系を用いて、微生物資源を対象とした脂質代謝を制御し得る機能分子の探索、およびその作用機序の解析を実施する。1) 脂質代謝を制御する機能分子の探索:本研究で構築した動物細胞内の中性脂質(CEとTG)の蓄積を観察する評価系などこれまで我々が展開してきた独創的な評価系に加え、細胞内に蓄積した脂肪滴の分解 (代謝) を観察できる評価系を構築する。これら評価系を用いて、微生物資源(年間約2000株ぐらい)を対象に脂質代謝を制御する機能分子の探索を行なう。選択された株の培養液は、LC-MS/MSによるモルキュラーネットワーク解析を行ない、新規性の高い代謝産物を含む培養液を効率よく選別し、目的の活性物質の単離精製、構造決定を行ない、新しい機能分子を検索する。2) 脂質代謝を制御する機能分子の作用機構や生合成経路の解明:動物細胞内のTG蓄積を阻害するDPAに関する研究に焦点を当てる。すなわち、作用機構研究としてビオチン標識体を用いた結合タンパク質の検索による標的分子の解明、生合成研究としてMCEと他の二量体化酵素の酵素学的比較することによる二量体化機構の解明を進める。3) PPPAに関する研究:これまで、PPPAとその誘導体PRDについては、脂質低下作用と抗動脈硬化作用に対する有用性を動物レベルで証明してきた。その過程で、脂肪肝に対する予防治療の可能性を示唆するデータを確認した。そこで、疾患発症モデル動物を用いてピリピロペン誘導体PRDを評価し、脂肪肝や脂肪肝炎に対する効果を評価する。
北里大学薬学部微生物薬品製造学教室http://www.pharm.kitasato-u.ac.jp/microbchem/wei_sheng_wu_yao_pin_zhi_zao_xue/Welcome.html
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