研究課題
ICF症候群は、免疫不全、サテライトDNAの低メチル化、セントロメア部分のヘテロクロマチンの崩壊、顔貌異常を特徴とし、複数の原因遺伝子に起因する劣性(潜性)遺伝病である。原因遺伝子としてDNAメチル化酵素DNMT3B(1型ICF)と核内蛋白質ZBTB24(2型ICF)が同定されているが、これらの遺伝子に変異のない症例も多数ある。本研究ではエキソーム解析による新規原因遺伝子の探索、患者由来iPS細胞や変異細胞・マウスを用いたモデル系開発・レスキュー実験、プロテオミクス解析や遺伝学解析を駆使したサテライトDNAのメチル化制御ネットワークの解明を行い、ICF症候群の分子病態とヘテロクロマチン形成・維持機構の全体像を明らかにする。平成26年度は、原因遺伝子未同定のICF症例6例(国内2症例+フランス4症例)についてエキソーム解析を完了し、オランダLeiden大学のvan der Maarel博士と候補遺伝子の比較検討を行った結果、CDCA7及びHELLSを新たな原因遺伝子(タンパク質)として同定することに成功した(3型及び4型ICF)(投稿中)。また、ZBTB24やCDCA7の生理的な機能を知るため、これらと相互作用するタンパク質の同定を目指してタグ付ZBTB24を培養細胞中で発現させ、IP-MS/MS法により相互作用するタンパク質をスクリーニングした(プロテオミクス解析)。その結果、100個程度の候補タンパク質を同定することに成功した。さらに、ZBTB24ノックアウトマウスを作成し、ヒトの2型ICF(ZBTB24の完全欠損)とは異なり胎生致死であることを示し、羊膜など一部の組織においてサテライトDNAの低メチル化を示唆する所見を得た。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した3つの項目についてそれぞれ予定の計画を達成した。特に、第3の原因遺伝子を探すエキソーム解析では、第3のみならず第4の原因遺伝子の同定に至り、予想を上回る成果が上がった。また、以前から進めていたフランスParis Diderot大学のFrancastel博士との共同研究において、ICF症候群の診断を容易にする新規のバイオマーカー(PCRで検出可能な遺伝子発現異常とメチル化異常)を同定し、論文にまとめることができた(Orphanet J. Rare Dis. 2014)。
エキソーム解析は完了したが、既知の原因遺伝子に変異のない2症例(国内1症例+フランス1症例)について、症例数の追加や海外研究機関の結果との比較等により、第5の原因遺伝子の同定を目指す。DNAメチル化酵素DNMT3Bとクロマチン再構成因子であるHELLS(LSH1とも呼ばれる)がサテライトDNAなどの反復配列のメチル化に関与することは知られていたが、ZBTB24やCDCA7がどのようにサテライトDNAのメチル化を制御するのか、どのようにICF症候群の発症に関わるのか不明である。そこで、まずプロテオミクス解析により同定したZBTB24相互作用タンパク質の詳細な研究を進め、サテライトDNAのメチル化制御ネットワークの解明を目指す。また、ZBTB24とCDCA7をノックアウトした培養細胞や実験動物を作成して詳細な解析を行う。研究実績の概要に記載の通りZBTB24ノックアウトマウスについては予備的な解析を終えたので、今後はその詳細な解析を進める。また、当研究室で既に確立しているゲノム編集技術を用いて、CDCA7ノックアウトマウスの作成を目指す。
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Orphanet J. Rare Dis.
巻: 9 ページ: 56
10.1186/1750-1172-9-56
http://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/labo/epigenome/index.html