本研究では、免疫不全、サテライトDNAの低メチル化、ヘテロクロマチンの崩壊などを特徴とする劣性(潜性)遺伝病「ICF症候群」の新規原因遺伝子の探索、及び変異細胞・マウス作成による病態モデル開発、サテライトDNAのメチル化制御ネットワークの解明を目指した。最終年度は、既知の4原因遺伝子(うち2遺伝子は昨年我々が報告)に加えて存在が推定される第5の原因遺伝子の探索を行ったが、エキソームデータの絶対数(症例数)が少ないため新規の原因遺伝子の同定には至らなかった。既知の原因遺伝子であるZBTB24やCDCA7がどのようにサテライトDNAのメチル化を制御するのか、ICF症候群の発症に関わるのか調べるため、ゲノム編集技術によりそれぞれの遺伝子に変異を導入した病態モデルを作成した。昨年報告したようにZBTB24ノックアウトマウスは胎生致死であったため詳細な解析を断念したが、ZBTB24及びCDCA7のノックアウト培養細胞を作成したところ、ZBTB24がCDCA7遺伝子の転写を正に制御することが分かった。これによりICF症候群原因因子の間の機能的な相互関係の一端が初めて明らかになった。さらに、プロテオミクス解析により、CDCA7がもうひとつの原因遺伝子HELLSの産物及び非相同末端結合に関連する数種類の因子と物理的に相互作用することを発見し、ICF症候群とDNA修復との関係を初めて指摘することに成功した(投稿準備中)。これにより、ICF症候群における免疫グロブリン産生異常やヘテロクロマチンの崩壊を、DNA修復異常の観点から研究できる可能性を示すことができた。以上のうちプロテオミクスとDNA修復に関する成果については、連携研究者である鵜木元香が大きな役割を果たした。また、変異体の作成などに必要なサーマルサイクラーを購入した。
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