研究課題
胃癌は一様ではなく,組織像は多様多彩である.2014年発表された癌ゲノムアトラス(TCGA)ネットワークによる胃癌分子型分類では,EBウイルス関連胃癌,マイクロサテライト不安定性胃癌(MSI-H),ゲノム安定性胃癌(びまん型),染色体不安定性胃癌(腸型)の4型が挙げられている.胃癌における個別化医療をさらに推進するためには,びまん型,腸型を新たな観点でさらに再分類するとともに,サブタイプごとに,進展に伴う癌細胞の多様性の獲得機構について解明し,胃癌病理学を再構築する必要がある.本研究では,癌進展に伴う遺伝子変異蓄積過程を明確にすると同時に,サブタイプに特徴的な間質間葉系細胞の存在を探る.さらに,両者の相互作用を検証することでサブタイプごとに多様性を解き明かし,胃癌個別化医療を支える病理学の構築を目指している.H29年度には,1) ARID1A発現消失の分布と推移について検討を加え,マイクロサテライト不安定性胃癌(MSI-H)に相当するミスマッチ修復酵素発現欠失胃癌(MMRD胃癌)の特殊性を明らかにした.2) EBウイルス関連胃癌では,CD47発現が微小環境中のT細胞の構成成分に影響を与えることを見出した.3) 染色体不安定性胃癌の中で胎児消化管に発現する分子を発現する一群が予後の悪いsubtypeであることを見出した.4) ゲノム安定性胃癌の中のCLDN18-ARHGAP融合遺伝子陽性胃癌の臨床病理学的特徴を明らかにした.今後も引き続き,サブグループごとに,進行に伴う多様性の検証,間質細胞の胃癌多様性への寄与,上皮幹細胞,癌幹細胞動態の面で解析を進めていく.連携研究者は牛久哲男准教授,牛久綾特任講師,国田朱子助教,阿部浩幸助教である.
2: おおむね順調に進展している
A.進行に伴う多様性の検証1)ARID1A変異に着目した遺伝子異常蓄積過程の解析:平成29年度は,EBウイルス関連胃癌,MSI-H胃癌で高頻度にみられるARID1A発現欠損を指標に組織内の不均一性を検討した.ARID1A発現欠損はサブタイプごとに異なった意義を持っている可能性が示唆された.また,周囲粘膜におけるARID1A発現欠損部位を検索し,先行病変,先行異型上皮における意義についても検討を続けている.2)染色体不安定胃癌については,胎児期消化管に発現する分子の発現について検討し,SALL4++/GRP3+/CLDN6+/AFP+の胎児形質発現胃癌が予後の悪い一群を形成することを見出した.ゲノム安定胃癌に関してはCLDN18-ARHGAP融合遺伝子陽性胃癌が60歳未満の症例で遠隔転移と密接に関連していることを見出した.B.間質細胞の胃癌多様性への寄与:EBウイルス関連胃癌における腫瘍微小環境に関して解析を進めている.’do not eat me’ signalと呼ばれているCD47の発現が高い症例では,腫瘍浸潤T細胞のCD8+/FoxP3陽性細胞比が低下し,予後も悪いことが判明した.RBウイルス関連胃癌で特殊な微小環境が形成されるメカニズムについて,胃癌細胞から放出されるエクソソームによる微小環境制御について検討を進めている.EBウイルス関連胃癌培養細胞株,EBウイルス感染胃癌細胞株培養液からエクソソームを単離した.単離エクソソーム添加による樹状細胞機能に焦点を当て検討を進めている.C.上皮幹細胞,癌幹細胞動態:種々の進行癌症例で,胃癌オルガノイド作製を試みている.不均一なオルガノイドが樹立される場合があり,胃癌不均一性を反映している可能性がある.EBウイルス関連胃癌の幹細胞性についても解析を進めている.
癌分子分類における4つのサブグループ(EBウイルス関連胃癌,マイクロサテライト不安定(MSI-H)胃癌,染色体不安定胃癌,ゲノム安定胃癌)について,引き続き,遺伝子異常に基づいたサブタイプの同定,進展機構の解析を進めていく.A.進行に伴う多様性の検証:1)進展部位ごとの遺伝子異常蓄積過程:平成30年度も,個々の癌の進展による遺伝子異常蓄積過程をサブタイプごとに,粘膜内,粘膜下層,筋層以深で系統的に追跡する.2)先行病変,先行異型上皮:胃癌周囲粘膜について解析を進め, EBウイルス関連胃癌,MSI-H胃癌などで高頻度に報告されたARID1A変異に着目し,癌の周囲粘膜において発現異常部位に対応してシーケンシングを行い解析を進める.B.間質細胞の胃癌多様性への寄与:1)特徴的間質間葉系細胞の同定を目指す実験的アプローチ:癌間質へ新たに動員される骨髄由来間葉系幹細胞が,間質の特徴を最も反映していると推定される.現在,細胞間情報を担う小胞として最近注目されているエクソソームに着目し,胃癌細胞由来エクソソームを添加した後の発現プロファイルの変化を検討する. 2)癌間質細胞CAF,固有層間質細胞に発現する特徴的分子の発現:とくに,粘膜固有間質の性状を規定する固有層間質細胞との比較検討を進める.C.上皮幹細胞,癌幹細胞動態:種々の進行癌症例で,胃癌オルガノイド作製を継続するとともに,安定したオルガノイド培養法の確立を目指す.EBウイルス関連胃癌の幹細胞性の解析を継続する.
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