研究課題
福島県内および他の地域の野生ニホンザルからの臓器・筋肉・血液のサンプリングを継続して行い、2015年度内に87頭の採材を行った。生息地域周辺の除染に伴う体内放射性セシウム濃度の低下がみられる地域もあったが、未だに高い体内濃度を示す地域もあり、生息地域の環境汚染度合いの指標となることが期待された。これまでに採材した被災ウシの血漿生化学検査を行い、低線量被ばくのバイオマーカーとなりうる因子の探索を行った。その結果、血漿中LDHアイソザイム、ALT、MDA、SOD、GPxといったストレス関連因子が内部被ばく線量率と高い相関を示した。被災ウシから得られた精子について、体外受精により作出した受精卵移植、および凍結精子を用いて人工受精を行い、これまでこれまでに5頭の産仔を得た。産仔の外貌に異常は認められず、筋肉中の放射性物質の線量は検出限界以下であった。ゲルマニウム半導体検出器によるγ線スペクトロメトリにより、汚染稲わらの給与試験を行ったウシ19頭の臓器420試料、尿・大便200試料、ルーメン150試料、稲わら40試料の放射性セシウム濃度の計測を行った。これらの結果の詳細は現在解析中であるが、ウシ体外からのNaI(Tl)シンチレーション検出器によるγ線測定による結果と、ネックの骨格筋中の放射能濃度に相関を調べ、体外からの汚染検査の適用可能性を検討した。ウシの歯一本一本に含まれるSr-90、Cs-137の測定を行い、歯中のSr-90は歯の形成時期に取り込まれたものが主であること、Cs-137は形成時の取り込みに加えて、歯表面からの取り込みがあることが判明した。福島原発周辺生物への影響に関するシンポジウムを開催し、国内有数の研究者を集め、今までに明らかとなった事象の検証と問題点を討議した。その内容をまとめ、英文雑誌であるJournal of Radiation Research誌から福島特集号を上梓することによって世界に発信した。
1: 当初の計画以上に進展している
霊長類である野生ニホンザルの採材頭数が、今までに最多であったウシ採材数を越えた。さらに放射線の生物影響を解析するために必須である非被ばく対照群として、新潟県新発田市の協力を得て、ニホンザル12頭を入手できた。Sr-90の放射能濃度を安定して計測することが可能となった。世界最先端の福島原発の生物、生態系への影響についての英文雑誌による特集号を発行し、世界に向けて情報発信を行えた。
長期内部被ばくによる経年的な変化を調べるために、引き続き被災動物の採材を行い、血球、及びスタンプ標本とアーカイブの作成を継続する。同時に、アーカイブ試料の解析を継続し、線量と生物学的影響の相関を調べる。特に骨髄における造血能と末梢白血球数の変化に注目し、長期微量被ばくの生物影響を解析する。体外受精した接合子を借り腹で産仔を得、遺伝子変異を解析する。汚染稲わら給与実験は終了したので論文としてまとめる。引き続きトロトラスト症標本の整理・管理を行い、恒久的な保存策を求めて長崎大学へ移管する。福島原発事故から5年という節目を迎えて、福島原発周辺動物への影響調査のシンポジウムを継続的に開催し、事故による影響解析結果の正しい情報を発信していく。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (30件) (うち国際学会 9件、 招待講演 11件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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