研究課題
野生ニホンザルの採材を継続した。福島第一原発の影響を受けた南相馬市35頭、浪江町 5頭、同緯度で影響を受けていない新潟県新発田市10頭であった。現在、放射性セシウム、それも137Csしか計測できなくなって来ている。臓器放射能濃度は、季節によって変動があり、土壌汚染濃度のようには下がっていない印象がある。浪江町のサルではいまだに134Csが検出されているほど放射性Cs濃度は高い。まだ高濃度汚染された食べ物があることになる。ウシへの汚染稲わら給与試験から、NaIカウンターで体外から頚部の放射能を計測値は、筋肉中のGeカウンターで計測した放射性Cs濃度とよく一致した。体内半減期は高齢個体の方が長かった。汚染稲わらの給与6週間くらいで血中濃度は飽和した非汚染稲わらに切り替えたところ、血中放射性Csは速やかに低下したが筋肉中放射性Csの下がり方は緩やかだった。旧警戒区域内で採材したウシ個体が、放射性セシウムが定常状態だったのか、減少しつつあったのかを見極められるはずである。野生アカネズミはβ線の影響も受けていると考えられる。浪江町の野生アカネズミの精巣について検討した結果、精子形成に向かって細胞回転が亢進しているにも関わらず成熟精子の数、機能に異常を検出しなかった。DNA二本鎖切断数のマーカーとして、核1個当たりのγ-H2AX数が挙げられる。被災ウシ末梢血リンパ球のγ-H2AX数は非被災ウシよりも多かったが線量とは無関係であった。福島原発事故の被災動物は、個体の老化と環境線量率の減少、慢性微量被ばくの複合した結果であり、長期低線量率被ばくの生物影響を検討するための指標の確立に必要であることが明らかとなった。福島原発周辺生物への影響に関する勉強会を開催し、関係研究者の情報交換と協力体制構築の強化を図った。生体影響調査の結果を実験室レベルで確認する方向が見えてきた集会であった。
1: 当初の計画以上に進展している
野生動物、特にニホンザルの採材は、季節変動が激しいうえ、地元自治体と捕獲隊の理解と協力なくしてはなし得ない。強い信頼関係が構築できたことは大きい。野生化したウシや小動物における生物影響についての結果が出てきており、複数の論文が国際誌に掲載されたため。
長期低線量率被ばくによる経年生物影響を知るために、ヒトに最も近い野生ニホンザルで残留放射能の高い地域からの採材に注力する。甲状腺の放射性ヨウ素による初期被ばくの影響調査を行う。そのために被災野生ニホンザルの甲状腺の病理学的検討を行う。131Iによる被ばく量を長半減期129Iの放射化分析で定量し、外挿する。水晶体の後嚢下部軸混濁は、放射線に起因する白内障に特徴的な所見である。被災野生サル白内障の検討を行い、被ばく線量と白内障発症の関係を解析する。引き続き、被災野生サルにおいてがん発生を中心とした病理学的解析を進める。原爆被爆者では遺伝子変異と関係のない循環器疾患リスクの上昇が知られているため、動脈硬化についても解析を行う。福島原発周辺生物への影響に関する勉強会を継続して開催し、原発事故による影響解析の科学的な検証を行い、最終報告書にまとめ、今後の提言を図る。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 2件、 招待講演 7件) 図書 (2件)
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