研究課題/領域番号 |
26253027
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
朝長 啓造 京都大学, ウイルス研究所, 教授 (10301920)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ボルナウイルス / 内在性ウイルス / 進化 / 感染防御 |
研究実績の概要 |
ヒトをはじめとする多くの哺乳動物のゲノムに見つかった内在性ボルナウイルス配列(EBLN)は、現存するボルナウイルスの遺伝子配列との相同性がきわめて高い。面白いことに、ボルナウイルスによる疾患を自然発症する動物は、ゲノムにEBLNを持たない種であり、EBLNを持つ動物ではボルナウイルスに対して抵抗性を示すことが確認されている。本研究は、内在性ボルナウイルス配列(EBLN)の感染防御への多様な関与を解析し、私たちが生まれながらにして持つウイルス抵抗性の謎を明らかにすることを目的としている。本年度は、ジュウサンセンジリスのゲノムに存在するEBLN(itEBLN)に着目し解析を行った。itEBLNは、外来性ボルナウイルスのN遺伝子とアミノ酸レベルで77%の相同性を有しており、またmRNAとしての発現が予測されてた。itEBLNのタンパク質としての機能を予測するため、組換えitEBLNを作成し、ボルナ病ウイルス(BDV)感染に対する効果を検討した。その結果、一過性に発現させた組換えitEBLNは、BDV持続感染細胞の核内に形成されるウイルス複製点に局在し、ウイルスmRNAならびにゲノムRNAレベルを有意に減少させることが明らかになった。そこで次に、組換えitEBLNを恒常的に発現するヒト由来細胞株を作成し、BDV感染実験を行なったところ、itEBLN恒常的発現細胞ではBDVの感染が顕著に阻害されることが示された。さらに、itEBLNとBDVの複製複合体であるRNPが結合していること、itEBLNの発現によりBDVポリメラーゼの転写活性が有意に低下することが明らかになった。今回の研究により、itEBLNはタンパク質としてBDVの複製を顕著に抑制することが示された。詳細な機序については不明ですが、itEBLNはBDV-Nタンパク質のドミナント・ネガティブ阻害体として機能すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度に計画していた哺乳動物由来のEBLNの機能解析は順調に進展している。特に、上述したようにジュウサンセンジリスのゲノム由来のEBLNの機能解析は、予想以上の進展を見せ、論文投稿ならびにパブリッシュまで行なった。この点において予想以上の進展と言える。その他、マウス由来のEBLNやヒト由来のEBLNの解析も既に論文投稿まで終了している。これらの進捗状況からも当初の計画以上であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、他の哺乳動物由来EBLNの機能解析を精力的に進める予定である。具体的にはコウモリに内在内しているボルナウイルス由来RNAポリメラーゼ(EBLL)やゾウに内在化しているEBLNである。EBLLはきわめて長いオープンリーディングフレームを保持しており、RNAポリメラーゼの基本構造も維持していることから、宿主内での機能が示唆されている。一方、ゾウ由来EBLNはこれまでに発見されたEBLNの中で最も古くに宿主に入り込んだものと考えられている。それにもかかわらず、オープンリーディングフレームの保持や細胞内での発現が確認されているものである。本年度は、EBLLとゾウEBLNに焦点を絞り解析を行う。
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