研究課題/領域番号 |
26253032
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 みさお 京都大学, iPS細胞研究所, 特定准教授 (50396701)
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研究分担者 |
前田 正一 慶應義塾大学, 健康マネジメント研究科(藤沢), 教授 (20396708)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 再生医療 / 生命倫理学 / 自由診療 / 質問紙調査 / iPS細胞 / 幹細胞 / 再生医療等安全性確保法 / 研究倫理学 |
研究実績の概要 |
(1) 再生医療等安全性確保法の課題抽出:2014年に「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が施行され、効果や安全性が検証されていない細胞治療を自由診療で提供することが規制されることになった。そこで、国内クリニックのホームページ情報を分析し、次の点を明らかにした。①少なくとも74施設で247件の細胞治療の提供がうたわれていた。②4施設が法で「高リスク」に分類される臍帯血等の投与をうたっていた。③国際ガイドラインから逸脱した治療が日本で合法的に提供される可能性があった。④広告規制の観点から不適切なホームページが数多く存在した。また、上記②の結果を受け、治療を目的とした臍帯血の譲渡、保存、提供に関する国内の実態を明らかにすべく、分娩取扱医療機関を対象にした質問紙調査の準備に着手した。この他、幹細胞治療を受けた患者がクリニックを訴え勝訴した判例の分析を行った。 (2) iPS細胞技術の倫理的課題に関する意識調査:動物の胚にヒトiPS細胞を入れて動物胎内に戻すこと(動物性集合胚研究)や、ヒトiPS細胞から作製した生殖細胞の受精を認めるかどうかが国内外で議論されているが、世論の動向は明らかでない。本年度は、「動物性集合胚研究」に関する一般市民の意識調査を実施した。また、iPS細胞や再生医療に関するTwitterの発言を分析した。 (3) 幹細胞研究の実施を倫理的側面から支援する体制についての調査:米国では2000年頃より、生命倫理学の研究者が「研究倫理コンサルテーション」―研究過程で生じる倫理問題等の解決において、生物科学の研究者を支援すること―を行うようになった。しかし、日本では生命倫理学の研究者が倫事務支援まで担うことも多く、人材不足は深刻である。本年度は、米国テキサス大学の研究倫理コンサルテーション担当者に研究者と事務職員との役割・機能分担等についてインタビューした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1) 再生医療等安全性確保法の課題抽出:ホームページ分析は国際誌に2本の論文が掲載され(うち1本は予定)、判例分析にてついては国際誌に1本、国内誌に1本の論文が掲載された。いずれの研究も国際学会で果を報告し、国内学会でも企画シンポジウムとして採用された。研究の進展に伴いに生じた新たな問い―国内クリニックは治療目的の臍帯血をどのようにして入手しているのか―に答えるべく、当初の計画にはなかった質問紙調査の準備に着手した。 (2) iPS細胞技術の倫理的課題に関する意識調査:一般市民を対象にした質問紙調査を実施し、データの集計まで行った。同じ調査を研究者にも行って、結果が比較できるよう準備中である。iPS細胞や再生医療に関するTwitterの発言分析は、当初の計画になかった研究だが、質問紙調査よりリアルタイムかつ低コストで大規模な民意を把握、検討することが可能になると考え、実施を判断した。研究成果の一部はすでに論文としてまとめ、国際誌へ投稿するに至っている。 (3) 幹細胞研究の実施を倫理的側面から支援する体制についての調査:前年度に引き続き、研究倫理支援体制の調査も米国で聞き取り等を行っている。 この他、複数の関連領域(「ゲノム編集」「包括同意」等)に関する学会発表等もできた。 本助成を受けて雇用した若手研究員のなかには、国内外の学会報告や学術誌への論文掲載を積極的に行い、次の職を得た者もおり、本プロジェクトが研究のみならず、若手研究者のスキル・アップやキャリア形成の場として効果的に機能していることが示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 再生医療等安全性確保法の課題抽出:ホームページ分析と治療目的での臍帯血の取扱については、日本語論文を含め、少なくとも1~2本の論文を投稿し、国内外の学会等で成果を報告する。 (2) iPS細胞技術の倫理的課題に関する意識調査:「動物性集合胚研究」に関する意識調査を研究者にも実施し、少なくとも1~2本の論文を国際誌に投稿し、国内外の学会等で成果を報告する。「ヒト生殖細胞の作製」や「ヒト胚へのゲノム編集」等のトピックスについても、国内外の議論や文献をレビューして質問紙を作成し、倫理委員会への申請までを目指す。 (3) 幹細胞研究の実施を倫理的側面から支援する体制についての調査:引き続きPublic Responsibility in Medicine and Research等の学会に参加して情報の収集を行う。 上記研究で得られた成果については、申請者の所属する研究室ホームページで、適宜積極的に情報発信を行う。
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