腎臓はネフロン前駆細胞 (後腎間葉)、尿管芽、そしてその間を埋める間質の、主に3つの細胞集団の相互作用によって形成される。我々は発生過程を模倣した複数ステップの処理によって、マウスES細胞及びヒトiPS細胞からネフロン前駆細胞を誘導し、そこから糸球体と尿細管を誘導することに成功した。そこで本計画は、幹細胞からさらに間質と尿管芽を誘導し、ネフロン前駆細胞と組みあわせて、腎臓の3次元構造を再構築することを目的とする。
1.腎臓を構成する前駆細胞の誘導と3次元構造の再構築: 腎臓を構成する前駆細胞の一つである尿管芽の発生過程を時間を追って追跡し、各発生段階で働く遺伝子群を明らかにした。またマウス胎児由来の3系統の前駆細胞(尿管芽、ネフロン前駆細胞、間質前駆細胞)を混合して腎臓の3次元構造を再構築する検定系も構築した。これらを指標にして、胎生初期の細胞集団を尿管芽まで誘導する条件を決定した。現在マウスES細胞から尿管芽に向けた誘導法を構築中である。また間質に関しても、遺伝子発現と再構成系を使って誘導を進めている。最終的には3系統すべてをマウスES細胞から誘導し、腎臓の高次構造を再構築することを目指している。
2.ヒトiPS細胞を用いた糸球体の解析: 糸球体ポドサイトで発現するネフリン遺伝子座にGFPをノックインしたヒトiPS細胞を樹立した。誘導したヒトポドサイトはネフローゼ症候群の原因遺伝子などポドサイトに特徴的な遺伝子群を発現していた。さらにマウスへの移植によって、糸球体が血管につながり、足突起が複雑化した。ヒトiPS細胞由来の腎臓組織が血管と接続し、さらに成熟したことになる。またネフロン前駆細胞の増幅法も開発した。
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