研究課題/領域番号 |
26253054
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
辻 省次 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (70150612)
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研究分担者 |
三井 純 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70579862)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 多系統萎縮症 / COQ2 / ミトコンドリア機能 |
研究実績の概要 |
多系統萎縮症発症(multiple system atrophy, MSA)にかかわる遺伝的要因として,COQ2の変異が関わることを見出した.COQ2遺伝子がcoenzyme Q10 (CoQ10)の合成に必須の酵素をコードしており,本研究は,COQ2変異によってもたらされる病態機序をCoQ10の補充によって改善できるかどうかについて,ミトコンドリアの酸化的リン酸化機能を定量的に解析し,CoQ10の補充による臨床治験の感度の高いsurrogate markerを開発し,臨床治験の評価項目として応用することを目的としている.初年度,フラックスアナライザーを導入して,接着細胞(培養皮膚線維芽細胞)を用いて,フラックスアナライザーによりOCR (oxygen consumption rate,酸素消費能)を測定することにより,ミトコンドリア酸化的リン酸化能の測定系を確立した.COQ2変異の機能解析を行うために,本年度はCOQ2遺伝子を欠損する酵母細胞株を準備し,この酵母細胞株に対して,野生型ヒトCOQ2 cDNA, さらに,多系統萎縮症患者で見出されているV393A, M128Vなどについて変異COQ2 cDNAを作成した.これらの,変異cDNAをCOQ2遺伝子を欠損する酵母細胞にトランスフォーメーションにより導入して,酸素消費能を測定した.その結果,V393A, M128Vともに,有意に酸素消費が低下することを証明した.特に,V393Aについては,これまでの機能解析で,機能低下の証明が十分にはできていなかったが,今回の結果は,多系統萎縮症に関連するV393Aがミトコンドリア機能の低下をもたらすことを証明することできた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に従い,フラックスアナライザーを導入して,接着細胞(培養皮膚線維芽細胞)を用いてミトコンドリア酸化的リン酸化能の測定系を確立した.すなわち,①ベースラインの酸素消費速度(OCR),②ATP合成酵素阻害剤oligomycin添加によるATP産生の評価,③脱共役剤FCCP添加による最大呼吸の評価,④ミトコンドリア複合体阻害剤antimycin, rotenone添加によるプロトンリークの評価をそれぞれ行うとともに,嫌気的解糖を反映する細胞外酸性化速度(ECAR)を測定した.初年度は,皮膚線維芽細胞を用いた酸素消費能の測定を行い,今年度は,COQ2遺伝子を欠損する酵母の細胞株に対してヒト変異COQ2 cDNAを導入することにより,任意のCOQ2変異の機能解析ができるようになった.この方法を用いて,多系統萎縮症に関連するV393A, M128Vが確かにミトコンドリアの酸素消費を低下させることを証明でき,順調に研究を進めることができた.
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今後の研究の推進方策 |
酵母を用いた変異COQ2 cDNAについての機能解析が可能になり,今後,多系統萎縮症で見出される多くの変異についての機能解析を実施する.末梢血白血球,リンパ芽球細胞を用いた測定系の構築を進め,COQ2変異によるミトコンドリア酸化的リン酸化能の低下について定量的な解析を進める.さらに,CoQ10添加により,ミトコンドリア機能の回復が観察されるかどうかを検討し,CoQ10投与による治験において,surrogate markerとして使用できるかどうかの評価を進める.
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