本研究では、ヒトiPS細胞から十分な機能を持つ膵臓β細胞を作成するために、分化誘導の促進化合物の同定、作用機序の解明を目指した。また、代謝による分化促進の利用により、成熟度の高い膵臓β細胞の作成を目指した。 これまで、ヒトiPS細胞の分化誘導系を用いた分化誘導促進化合物の探索と平行して、成体膵島の分散培養系を用いた膵β細胞の増殖促進作用を示す化合物のスクリーニングを行った結果、ドパミンD2受容体の拮抗剤であるDomperidoneが膵β細胞量を増加させることを見出した。ドパミンシグナルの抑制は、膵β細胞の増殖促進、膵β細胞死の抑制を示し、膵β細胞に対して脱分化抑制作用が強く、その結果、見かけ上膵β細胞量が増加した。このドパミンシグナルの抑制は、β細胞の増殖を正に制御するアデノシンシグナルの抑制を介していることを明らかにした。正常膵島β細胞では、ドパミンDRD2受容体がアデノシンA2A受容体とヘテロマー形成することにより、膵β細胞の増殖を負に制御している。今後、得られた知見を利用して膵臓β細胞の増殖制御に応用することが期待される。 一方、ヒトiPS細胞より大量の膵臓β細胞をより安定に分化誘導するため、立体培養法を用いた方法を確立した。分化誘導に先立ち、短時間メチオニン除去の方法を組み合わせることにより、糖に対する応答性のあるインスリン分泌能のあるヒトiPS細胞由来の膵β細胞(hiPS-β細胞)を安定に作成できるようになった。得られたhiPS-β細胞について、詳細な遺伝子発現解析を行った。また、本研究では、免疫不全糖尿病マウスモデルを作成し、それをもちいた動物体内への移植実験を行った。
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