研究課題
Down症新生児の約10%に前白血病TAMが発症し、その20%は骨髄性白血病 (DS-AMKL) を発症する。我々は、最近、DS-AMKLではGATA1に加え、コヒーシン複合体/CTCF、EZH2などのエピゲノムの制御因子、およびシグナル伝達系分子をコードする遺伝子群に高頻度に変異が生じていることを発見した。本研究の目的は、DS-AMKL特異的遺伝子変異の機能解析を行い、白血病の多段階発症の分子機構を解明して、画期的な新規治療法を開発することである。本年度は、DS-AMKL特異的遺伝子変異の機能解析を行い、以下の結果を得た。CRSPR/Cas9システムを用いてゲノム編集を行い、GATA1変異を持たない巨核芽球系細胞株K562に、TAM/DS-AMKLにみられるGATA1変異を導入した。その結果、野生型GATA1がまったく発現しなくなりGATA1sのみが発現するK562細胞亜株を複数樹立した。興味深いことに、GATA1s変異を有するすべての細胞株で、TAM細胞の増殖に重要なサイトカインSCFの受容体であるc-KITの発現が上昇していた。さらに、K562野生株を用いてChIP-seqでGATA1結合領域を網羅的に解析したところ、c-KIT遺伝子の5'上流域にGATA1結合領域を複数同定した。これらの領域におけるGATA1sとGATA2の結合に関して、GATA1変異陽性K562細胞株を用いてChIP-seq で解析を行う予定である。また、レンチウイルスTet発現誘導システムを用いて、CTCF変異を有するDS-AMKL細胞株KPAM1に野生型CTCF発現ベクターがドキソサイクリン存在下に大量に発現誘導される細胞株を樹立し、この方法がコヒーシンなど他の遺伝子解析にも使用できることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究の目的は、画期的な新規治療法を開発するためにDS-AMKL特異的遺伝子変異の機能解析を行い、白血病の多段階発症の分子機構を解明することである。DS-AMKLで見つかった遺伝子変異がどのような仕組みでTAMからAMKLを引き起こすかを解明するため、具体的には、機能欠損変異の解析、機能獲得変異の解析と多段階発症の仕組みの解析の3点に焦点を絞って研究を計画した。本年度は、以下の研究成果が得られ、概ね順調に研究が進展している。当初、レンチウイルスshRNA発現ベクターを用いて機能欠損変異の解析を行うことを計画していた。しかし、最近のCRISPR/Cas9システムの開発により、培養細胞においてもゲノム編集を容易に行うことが可能となった。このため、より優れた疾患モデル作成が可能な本システムの使用に切り替えることにした。まず、GATA1変異を持たない巨核芽球系細胞株K562に、CRISPR/Cas9を用いてTAM/DS-AMKLにみられるGATA1変異を導入した。その結果、野生型GATA1がまったく発現しなくなりGATA1sのみが発現するK562細胞亜株を複数樹立した。興味深いことに、GATA1s変異を有するすべての細胞株で、TAM細胞の増殖に重要なサイトカインSCFの受容体であるc-KITの発現が上昇していた。さらに、K562野生株を用いてChIP-seqでGATA1結合領域を網羅的に解析したところ、c-KIT遺伝子の5'上流域にGATA1結合領域を複数同定した。また、レンチウイルスTet発現誘導システムを用いて、CTCF変異を有するDS-AMKL細胞株KPAM1に野生型CTCF発現がドキソサイクリン存在下に大量に誘導される細胞株を樹立することにも成功した。
DS-AMKLではGATA1に加え、コヒーシン複合体やEZH2などをコードする遺伝子群に高頻度に変異が生じている。本年度は、初年度に確立した方法を用いて、白血病の多段階発症の分子機構を解明する。まず、前年度CRISPR/Cas9システムで樹立したGATA1sのみが発現するK562細胞亜株を用いて、GATA1s変異が巨核球系細胞の増殖を促す仕組みを解明する。GATA1s変異を有するすべての細胞株で、TAM細胞の増殖に重要なサイトカインSCFの受容体であるc-KITの発現が上昇していた。c-KITの発現は、GATA1により抑制され、GATA2により促進されることが報告されている。即ち、GATA1とGATA2は同じGATA配列に競合的に結合し、遺伝子発現制御を正反対にコントロールしている。そこで、c-KIT遺伝子5'上流域のGATA結合領域におけるにGATA1sの結合についてChIP-seqで検討し、c-KIT発現誘導の仕組みを明らかにする。また、RNA-seqを用いて、野生株とGATA1s変異株での遺伝子発現の差を網羅的に解析する。CRISPR/Cas9によるゲノム編集を用いて、TAM細胞やTAM由来iPS細胞のコヒーシンやEZH2をコードする遺伝子をノックアウトし、in vitro培養系で増殖能や遺伝子発現などについて解析する。しかし、primary TAM細胞の遺伝子編集は、技術的にまだ十分に確立されていない。このため、遺伝子編集の効率を改善させるなど、解析を進めるための十分な技術的基盤を整えることが必要である。そこで、Tet発現誘導システムを用いて、コヒーシン遺伝子に変異を有するDS-AMKL細胞株に野生型遺伝子を発現誘導する細胞株の樹立も同時に進める。
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