研究課題
本研究では、自己リンパ球を生体外にて免疫制御性リンパ球へと誘導し、この細胞を体内へ投与する細胞治療を行うことで、免疫抑制剤服用中である肝移植後レシピエントの免疫抑制剤減量・中止を図り、安全な免疫寛容誘導法を確立するため、1) 生体肝移植術後レシピエントを対象として細胞治療を行い、その免疫抑制剤減量や免疫寛容誘導効果を検討する、2) 誘導した免疫制御性リンパ球を解析し、その免疫抑制メカニズムを解明する、3) 細胞治療を行ったレシピエントの末梢血リンパ球やグラフト組織を解析し、細胞治療による免疫寛容誘導作用のメカニズムを探求する、ことを目的としている。本年度はこれら主たる研究目的のうち、誘導した免疫制御性リンパ球を解析して免疫抑制メカニズムを検討した。抗CD80抗体、抗CD86抗体の存在下にドナー抗原と共培養して誘導したレシピエント由来のリンパ球において、どの細胞群が免疫制御性の作用を有するか不明である。ヒト末梢血単核球を用い、前述の方法により誘導した細胞のドナー抗原に対するリンパ球増殖抑制能や細胞種・フェノタイプを検討した。T細胞、特にCD4+T細胞が増加し、中でもCD25+Foxp3+やCD127loFoxp3+細胞が著増していた。更に、誘導した細胞群のうち、特定の細胞種のみを除去してリンパ球増殖抑制能を評価することで、誘導された免疫抑制性細胞の同定を試みた。ドナー抗原に反応するリンパ球増殖は誘導リンパ球を添加することで抑制された。抑制は添加する細胞数に比例し増強した。誘導リンパ球からCD3+細胞除去で抑制能は完全に失われ、再添加で抑制は復した。しかし、B細胞、単球、NK細胞や樹状細胞の除去では抑制能は保たれた。ドナー抗原存在下に、抗CD80抗体および抗CD86抗体を用い誘導される免疫制御性リンパ球はCD3+T細胞であることが判明した。
3: やや遅れている
本年度は、誘導した免疫制御性リンパ球を解析し、その免疫抑制メカニズムを解明することの他に、生体肝移植術後レシピエントを対象として細胞治療を行い、その免疫抑制剤減量や免疫寛容誘導効果を検討する予定であった。前者は予定通りもしくは当初の計画以上に進展したが、後者については、平成26年11月に「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が施行されたことから、(特定)認定再生医療等委員会での承認を得る必要が生じたため、臨床試験の開始が遅れている。従って、達成度としてはやや遅れていると考える。
平成28年度は、引き続き計画通りに研究を遂行する予定である。しかし、研究計画のうち、生体肝移植術後レシピエントを対象とする細胞治療を行うためには、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」により定められた(特定)認定再生医療等委員会の承認が必要となるため、北海道に当該委員会が設置・承認されるまで、細胞治療を行う本臨床試験を延期せざるを得ない状況となっている。当該委員会は平成27年度中には承認される見込みで、第1回の委員会は6月初旬に開催予定であり、本臨床試験計画をこれに提出する予定である。また、平成28年度は、本細胞治療を行った先行臨床試験の症例において末梢血リンパ球やグラフト組織を解析し、細胞治療による免疫寛容誘導の作用メカニズムを検討する研究を進め、研究の全体計画の遂行には支障を来さぬよう研究を進める。
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