研究課題
本研究では、自己リンパ球を生体外にて免疫制御性リンパ球へと誘導し、この細胞を体内へ投与する細胞治療を行うことで、免疫抑制剤服用中である肝移植後レシピエントの免疫抑制剤減量・中止を図り、安全な免疫寛容誘導法を確立するため、1) 生体肝移植術後レシピエントを対象として細胞治療を行い、その免疫抑制剤減量や免疫寛容誘導効果を検討する、2) 誘導した免疫制御性リンパ球を解析し、その免疫抑制メカニズムを解明する、3) 細胞治療を行ったレシピエントの末梢血リンパ球やグラフト組織を解析し、細胞治療による免疫寛容誘導作用のメカニズムを探求する、ことを目的としている。本年度はこれら主たる研究目的のうち、先行する臨床研究において細胞治療を行い免疫寛容が誘導された症例の末梢血リンパ球を用い、細胞治療による免疫寛容誘導作用のメカニズムを検討した。採取したリンパ球では、ドナー抗原に対するリンパ球の増殖反応やIFN-gamma産生が抑制され、第三者抗原に対してこれら免疫反応は残存しており、ドナー抗原特異的な抑制状態にあることが判明した。このドナー抗原特異的抑制の機序にはCD25+制御性T細胞の関与は限定的で、CD25+T細胞除去によりドナー抗原特異的抑制反応が消失する症例とそうでない症例が認められた。免疫寛容状態にある3症例の末梢血リンパ球をNSGマウスに投与し、ヒト化マウスを作成した。いずれも良好にヒトリンパ球が構築され、このヒト化マウスでドナー抗原に対する免疫反応を検討したところ、ドナー抗原特異的な免疫抑制は維持されていた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、生体肝移植術後レシピエントを対象として細胞治療を行い、その免疫抑制剤減量や免疫寛容誘導効果を検討する予定であった。しかし、平成26年11月に「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が施行され、本臨床試験を開始するためには、北海道において(特定)認定再生医療等委員会での承認を得る必要があるが、当該委員会が未だ設置・承認されておらず、臨床試験開始も遅れを余儀なくされている。このような状況から、前年度から開始した研究に加え、本細胞治療を行った先行臨床試験の症例において末梢血リンパ球を解析し、細胞治療による免疫寛容誘導の作用メカニズムを検討する研究を前倒しして開始している。なお、臨床試験が当該委員会で承認されるための申請や試験開始に必要な準備も行っている。以上より、全体の達成度としては、概ね順調に進展しているものと判断する。
平成28年度は、引き続き計画通りに研究を遂行する予定である。しかし、研究計画のうち、生体肝移植術後レシピエントを対象とする細胞治療を行うためには、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」により定められた(特定)認定再生医療等委員会の承認が必要となるため、北海道に当該委員会が設置・承認されるまで、細胞治療を行う本臨床試験を延期せざるを得ない状況となっている。当該委員会は平成27年度中には承認される見込みで、第1回の委員会は6月初旬に開催予定であり、本臨床試験計画をこれに提出する予定である。また、平成28年度は、本細胞治療を行った先行臨床試験の症例において末梢血リンパ球やグラフト組織を解析し、細胞治療による免疫寛容誘導の作用メカニズムを検討する研究を進め、研究の全体計画の遂行には支障を来さぬよう研究を進める。
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Hepatology
巻: In press ページ: In press
10.1002/hep.28459