研究課題/領域番号 |
26253069
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川口 義弥 京都大学, iPS細胞研究所, 教授 (60359792)
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研究分担者 |
山田 泰広 京都大学, iPS細胞研究所, 教授 (70313872)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分化誘導 / ES細胞 / 食道胃接合部 |
研究実績の概要 |
本研究では、“異なる上皮の接点”の形成・維持機構の解明に向けて、in vitro培養による立体的組織誘導系を確立する。具体的には、マウスES細胞を用いた食道―胃接合部の試験管内作製を行う。更に、この技術に発癌遺伝子変異を導入する事で試験管内発がんモデルの作製を目指す。 1) レポーターES細胞の準備とRainbow Organoid作製 扁平上皮細胞で構成される食道上皮と腺細胞からなる胃上皮の形成過程をリアルタイムで観察可能とするRainbow Organoidの作製に向けて、扁平上皮マーカーP63、腺上皮マーカーGATA4それぞれのプロモーター支配下にEGFP, td-Tomatoを発現するノックインコンストラクトを作製し、両者をマウスES細胞に導入した。作製されたレポーターES細胞を用いて分化誘導するとEGFP陽性細胞、td-Tomato陽性細胞の両者を確認済みであり、抗体を用いた免疫染色での確認作業段階に入っている。 2)食道/胃上皮への分化制御機構の解明 試行錯誤の結果、以下の知見を得た。ES細胞から内胚葉上皮への分化には、高濃度ActivinとWnt3aが重要である。そこからSox2陽性前腸の誘導にはFgf4とWnt3aの濃度調節が必要であり、WNT3aには①原腸細胞への分化作用に加えて②原腸前後軸での後方化作用を有する事が分かった。最終的には70%の細胞がSox2陽性前腸となり、三次元培養へ移行させる事で、内胚葉細胞のみからなる立体的組織(原腸オルガノイド)の作製技術を確立した。食道/胃上皮への分化制御では、NogginまたはSB431542(TGFβ阻害薬)が扁平上皮分化を効率化させる一方、BMP4、Fgf10、HES1阻害薬は腺上皮分化を促進する事が分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度研究実施計画書に記載したレポーターES細胞の作製は細部での変更を加えて予定通り終了した。計画書では腺上皮マーカーとしてPdx1を選んでいたが、GATA4に変更した。これは、我々自身が、“内胚葉上皮細胞のみからなる原腸オルガノイドを作製する技術”を開発した事と無関係ではない。マウス発生における腺上皮細胞分化では転写因子GATA4がPdx1に先行して発現する。しかしながら、内胚葉特異的なPdx1と違って、GATA4発現は内胚葉特異的ではない。本研究計画立案時点では上記技術が未開発であったために、他細胞系譜に分化途中のGATA4を検出することのリスクを考慮してPdx1を選択していたが、内胚葉細胞のみからなる原腸オルガノイドを作製できる様になり、本研究でのレポーター選択をGATA4に変更するに至ったものである。その為に、当初計画していたRainbow Organoidの作製とそれを用いた食道―胃分化制御機構の解明実験に遅れを生じる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
1)Rainbow Mouseの作製と食道/胃上皮への分化制御機構の解明:作製したレポーターES細胞を用いてキメラマウス個体(Rainbow Mouse)を作製する。このマウスの食道はEGFPを発現し、胃はtd-Tomatoを発現するはずなので、培養皿上で展開するin vitro組織形成過程(Rainbow Organoid)と比較検証する。さらにRainbow Organoidで扁平上皮/腺上皮への分化直後の細胞をFACS採取する。これと分化誘導前の細胞とを、マイクロアレーによる発現遺伝子解析とエピゲノム解析で比較する。 2)食道―胃接合部形成/維持におけるNotchシグナルの意義解明:これまでの予備実験から、マウス胎生期の食道―胃接合部にHes1が強く発現する事が分かっており、食道―胃接合部形成におけるNotchシグナルの関与が伺われる。In vitroでのloss of function実験としてDAPT添加を行う。一方、Notchシグナルを活性化する薬剤が存在しないために、in vitroでのgain of function実験は不可能である。そこで、今年度中にSox2-CreERマウスを入手してNICDマウスと交配し、Notch活性化によるフェノタイプをin vivoで検証する(~平成28年度まで)。マウス実験で何らかのフェノタイプを得られた場合、交配したマウス受精卵からES細胞を樹立し、in vitroでのオルガノイド作製で詳細な解析を加える。 3)試験管内胃がんモデルの作製:平成27年度中に、前項目に記したSox2-CreERマウスとApc floxedマウスを交配のうえ、ES細胞を作製する。28年度以降、オルガノイド作製、タモキシフェン投与による試験管内胃がんモデルの開発に着手する。
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