研究課題/領域番号 |
26253081
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山岨 達也 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (60251302)
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研究分担者 |
岩崎 真一 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (10359606)
樫尾 明憲 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (20451809)
柿木 章伸 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (60243820)
藤本 千里 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (60581882)
松本 有 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80548553)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 老化 / 難聴 / 酸化ストレス / ミトコンドリア / アポトーシス |
研究実績の概要 |
二酸化ゲルマニウム投与によるミトコンドリア慢性障害マウスモデルで進行性難聴を作成した。血管条の変性、有毛細胞の軽度脱落、ラセン神経節細胞の減少が見られ、DNAマイクロアレイでapotosisやinflammationなどに関する遺伝子発現の増加、エネルギー代謝、聴覚、DNA修復などに関する遺伝子発現の低下を、定量的RT-PCRでミトコンドリア呼吸鎖複合体の代表的遺伝子発現の低下を確認した。タウリン、CoQ10、水素水を投与したところ、この順に聴力低下、組織の変性が抑えられることを見出した。 C57BL/6マウスをコントロールとし、Taurin transporter KOマウス、COX7RP KOマウスにおいて聴覚障害が加速するか検討したが、ABRおよび温度眼振検査での計時的評価で有意な差は見られなかった。グルタチオン還元酵素(GSR)のノックアウトマウスでは32kHzでのみ有意な閾値上昇がみられたが、組織解析ではコントロールと差がなかった。しかしGSRをsiRNAでノックダウンすると過酸化水素によるマウス蝸牛培養細胞障害が増加し、ミトコンドリアの呼吸率が低下するという所見が得られている。GSRノックアウトマウスにおけるカロリー制限の効果は顕著ではなかった。 マウスに運動をさせるとカロリー制限と同じように加齢性難聴が予防されるか検討したところでは、回転板で運動させた運動群とコントロールに今のところ有意差は出ていない。たんぱく制限の効果もボーダーラインにある。騒音暴露の加齢性難聴へのMnSODの影響をMnSODヘテロマウス(HET)を用いて調べたところ、急性高度難聴を来たす条件においてHETマウスで難聴の悪化が見られた。 HEI-OCI細胞を用い、有毛細胞のミトコンドリア機能の評価ができるシステムを構築したが、さらにP3マウスの蝸牛感覚上皮培養でも評価システムを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CBAマウスに二酸化ゲルマニウムを投与した実験では、聴力所見、組織所見、遺伝子発現の結果は再現性があり、難聴予防実験でも3つのサプリメントで有意な結果を得たことは、期待以上であり、投稿準備中である。 一方、Taurin transporter KOマウス、COX7RP KOマウス、グルタチオン還元酵素(GSR) KO マウスなどの遺伝子改変動物で加齢による難聴が加速することを期待していたが、機能的には予想通りの結果ではなかった。in vitroに実験手法を変えて検討したところ、GSRの酸化ストレスに対する蝸牛細胞の感受性への効果は判明し、その詳細な検討を進めている。 運動の効果も一定の結果をはじめは期待されたが、個体差があり、思ったような結果は出ていない。騒音暴露の加齢性難聴への影響については、急性高度難聴を来たす条件ではC57BL/6マウスとMnSODヘテロマウスに有意な差が得られ、期待通りの結果であり、組織解析も終了した。現在TTS程度の軽度障害の長期影響について聴力の経過観察を終えたところである。 HEI-OCI細胞を用い、有毛細胞のミトコンドリア機能の評価ができるシステムの構築に加え、P3マウスの蝸牛感覚上皮を培養して評価する手法も確立し、ミトコンドリア機能に影響する薬剤の効果の評価を開始できている。
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今後の研究の推進方策 |
二酸化ゲルマニウム投与実験については、合わせて投与した場合の効果やそのほかのサプリメントの効果も調べる。Taurin transporter KOマウス、COX7RP KOマウス、GSR KO マウスについては組織評価を追加して行う。今後さらにアディポネクチン過剰産生マウスなど、動物種を増やしてさらに検討を加える。上記の遺伝子改変動物ではP3の蝸牛感覚上皮を培養し、耳毒性薬剤や酸化ストレス誘発薬などを投与して、これらの遺伝子の内耳における働きを調べる。運動の効果の検討については、一定時間の運動を強制的にさせる実験方法を再検討する。騒音暴露の加齢性難聴への影響については、TTS程度の軽度障害を若年齢で与えた場合の長期影響に対する酸化ストレスの関与について聴力の経過観察を継続し、組織評価を行う。 有毛細胞のミトコンドリア機能の評価ができるシステムを構築したので、活性酸素の生じる薬剤(パラコート、過酸化水素、など)や耳毒性をきたす抗菌薬を投与して、ミトコンドリア機能の変化に関する評価を行う。 最後に蝸牛全体をdissectionせずに組織評価する組織透明化方法を開発し、免疫染色技術と組み合わせて、各種老化モデル動物の評価を包括的に行うことを開始する。
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