研究課題/領域番号 |
26257003
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
嶋田 義仁 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (20170954)
|
研究分担者 |
坂田 隆 石巻専修大学, 理工学部, 教授 (00215633)
ボルジギン ブレンサイン 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (00433235)
中川原 育子 名古屋大学, 文学研究科, 助教 (10262825)
石山 俊 総合地球環境学研究所, 大学共同利用機関等の部局等, その他 (10508865)
兒玉 香菜子(児玉香菜子) 千葉大学, 文学部, 准教授 (20465933)
平田 昌弘 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (30396337)
縄田 浩志 秋田大学, その他部局等, 教授 (30397848)
大野 旭(楊海英) 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40278651)
今村 薫 名古屋学院大学, 経済学部, 教授 (40288444)
中村 亮 総合地球環境学研究所, 大学共同利用機関等の部局等, その他 (40508868)
OUSSOUBY Sacko 京都精華大学, 人文学部, 教授 (70340510)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | アフロ・ユーラシア内陸乾燥地 / 牧畜パワー / 人類文明史 / 移動・運搬手段 / 政治軍事手段 / 世界宗教 / 長距離商業交易 / 巨大帝国形成 |
研究実績の概要 |
全体実績として、23論文、21図書、41口頭発表があった。代表嶋田は、AIEUS(国際人類学会)においてAfro-Eurasian Dry Land Civiliwation Panelを組織して本研究の基本成果を公開した。また、講演「地球人類学めざして」において研究全体の方向を論じるとともに、内蒙古師範大学では2日間にわたる招待講演をおこない、研究の基本思想を論じ、内蒙古師範大学との共同研究をはかった。 課題①「アフロ・ユーラシア内陸乾燥地牧畜パワーの批判的検討」については、坂田のラクダの研究、今村のカザフスタンのラクダ研究が蓄積された。研究協力者パオは、社会主義中国建国以来の内モンゴル家畜統計分析をおこない、飼育家畜の小型家畜・ウシ中心化、および地域的変動をあきらかにし、内モンゴル牧畜の酪農化を論じた。平田は雑誌連載によりユーラシアの乳文化研究をすすめた。パオは、家畜フンのエネルギー源としての重要性を指摘し、博士論文で家畜フン文化論を展開した。 課題②「アフロ・ユーラシア内陸乾燥地の都市文化論」については、石山がサハラ・オアシス、サコがサハラの住文化論、中川原がユーラシアの岩絵・洞窟美術、研究協力者の曹栄梅は内モンゴル茶文化の形成を茶馬交易に注目して論じ(博論)、松平勇二はアフリカ・ジンバブウェの音楽と儀礼文化について論じた(博論)。嶋田はアフリカにおけるイスラーム化の研究をすすめた。 課題③「牧畜文化の現代的変容」は、ブレンサインが中華民国時代、大野が社会主義時代の内モンゴル牧畜文化の変容の研究をすすめた。大野の図書刊行は4冊、ブレンサインは8点の英語とモンゴル語研究を発表した。今村のカザフ研究も社会主義体制下における牧畜変容。石山はアフリカ内陸国チャドの植民地化による「内陸化」を論じた(博論)。縄田は中東石油文化における牧畜文化変容の英語論文集を準備中(出版確定)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体の業績数が、論文23、著作21、口頭発表41と、旺盛であった。しかも、外国語での論文・講演が全体の4分の1を占める。また、国際人類学会のシンポジウムにおいて、家畜パワーに注目する本研究グループの成果が公開されたことの価値は大きい。 課題①「牧畜パワーの批判的検討」では、ウマ・ラクダの現代における存在価値の低下が問題となった。パオの内モンゴルにおける飼育家畜数の統計分析は、モンゴルの5畜飼育がヤギ・ヒツジ、ウシ中心の3畜飼育へ移行と、「酪農化」を示した。現代ラクダ文化の変容については、坂田、今村、縄田が多角的な分析をすすめた。平田のユーラシア乳文化論と、パオの家畜フン文化論は、多元的な牧畜パワーの現実をあきらかにしつつある。 課題②「都市文化論」では、岩絵・洞窟美術文化研究が特にすすめられた。岩絵・洞窟美術は狩猟採集民文化に起源するが仏教、キリスト教文化にも引きつがれた。それがアフロ・ユーラシア乾燥地には広く分布している。その論集編集が、中国、カザフの研究者の寄稿とともにすすめられている。曹は、モンゴルのタン茶(乳茶)文化形成を茶生産地の華中華南とモンゴルを結んだ茶葉交易から明らかにし、モンゴルがシルク・ロード交易と茶馬交易という長距離国際交易網のなかに位置してきたことを明らかにした。 課題③「牧畜文化の現代的変容」では、大野旭、ブレンサインによる内モンゴル研究は、モンゴル・中国近現代史研究に大変革をもたらしている。両者の研究は牧畜民の定着や農牧複合、政治史に中心がある。他方、パオの家畜頭数の統計分析も、家畜頭数変化は中国政治史変化とかなり有意な対応を示している。これらの研究は社会主義体制下の牧畜文化現代史として、植民地体制下におかれたアフリカの牧畜文化の現代史と比較検討される価値がる。縄田は石油文明化の牧畜文化変容の英語著書刊行の準備をすすめた。
|
今後の研究の推進方策 |
課題1.牧畜パワーの批判的検討の体系的展開。①世界における全家畜飼育頭数および家畜生産の歴史手変化の体系的研究。これまでラクダの世界的統計および、中華人民共和国成立以来の内モンゴル5畜の統計分析は終えているが、5畜全体の飼育頭数と家畜生産の世界的統計の分析をすすめる。これにより、牧畜文化の現代的変容がかなり明らかになる。②家畜パワーの体系的分析(肉、毛、乳、皮の生産、家畜フンの利用、移動運搬手段、政治軍事手段、労役)。その歴史的変化の分析もおこなう。特に、移動運搬手段、政治軍事手段、労役という家畜エネルギーの直接利用の現代における低下が問題になる。 課題2.都市文化論。①アフロ・ユーラシア内陸交易路とその結節点に形成されたオアシス都市の研究(交易経済、宗教文化(特に、イスラーム、キリスト教、仏教という世界宗教、沿岸海洋交易との関連)、多民族構成、絨毯や陶器、皮細工などの工芸、テントや日干しレンガ、穴居家屋などの建築、牧畜文化と都市文化の複合、オアシス民のライフ・ヒストリー)。②岩絵・洞窟美術とこれにともなう宗教文化の研究。③茶、コーフィー、香辛料、酒の文化。 課題3.牧畜文化の歴史的変容。①牧畜文化の現代的変容(定着化、酪農化、商業化、都市・農耕民文化との融合、機械化など)の、社会主義体制下と植民地主義的資本主義体制下、石油資源国との間で比較研究。同時に、近代におけるヨーロッパ中心の海洋交易文明登場によるアフロ・ユーラシア内陸乾燥地文明衰微の問題。②牧畜文化の歴史的変容(狩猟採集文化からの牧畜の形成、各種家畜の起源地からの伝播とこれにともなう社会変容とくに帝国形成と長距離交易経済との関連、牧畜技術や家畜の品種改良、酪農化、定着化、宗教文化)。 課題4.以上をふまえて、アフロ・ユーラシア内陸乾燥地文明論を構築する。これは同時に人類文明史のあらたな構築のこころみでもある。
|
備考 |
代表の所属機関変更により、新webページ作成中
|