研究課題/領域番号 |
26257008
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大澤 孝 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (20263345)
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研究分担者 |
鈴木 宏節 青山学院女子短期大学, 現代教養学科, 助教 (10609374)
白石 典之 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (40262422)
山口 欧志 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, アソシエイトフェロー (50508364)
松川 節 大谷大学, 文学部, 教授 (60321064)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | モンゴル東部 / 突厥時代 / 古代テュルク・ルーン文字碑文 / 発掘調査 / 拓本・写真調査 / ドローン撮影 / 考古学調査 / 遺跡の修復と保存 |
研究実績の概要 |
本年度は、2017年9月2日から24日まで、モンゴル東部のスフバートル県テブシンシレー郡にあるドンゴインシレー遺跡・碑文を現地のモンゴル科学アカデミー歴史学研究所考古学センターの研究員たちと共同で発掘調査した。本発掘調査では、昨年行った遺跡調の南北方向のトレンチ溝の発掘の継続と、東西方向のトレンチ溝の発掘を行い、遺跡をとりまく周溝の構造復元を行うための試掘作業をおこなった。その結果、遺跡マウンドの中央では約17m四方の長方形の周溝痕跡を確認できた。また南北、東西各方向の両端部及び中央部地点からは、本遺跡の被葬者のために犠牲に添えられた羊や馬などの獣骨が複数、出土した。また遺跡中央からは、かつて本遺跡が盗掘された痕跡とその表面層を示す白土層、さらにその下から盗掘されて投げ込まれた板石破片やそこに投げ込まれた羊や馬の骨片が出土した。これらは今後の放射性年代測定のための試料として有力な手がかりとなるであろう。 また本遺跡マウンドでは約15mの方形の回りには、複数の碑文の根元の石片が出土した。碑文は計14本で、東辺に4本、南辺に3本、西辺に2本、北辺に3本、そしてマウンド中央の方形石囲いの東側に1本立てられていたと推測可能である。しかしながら、残りの1本はばらばらに破壊されており、本来の設置場所は不明である。また今回も遺跡上空からのドローン撮影や碑文数片の3Dによる撮影を行った。また当時の歴史環境の復元を行うための周辺遺跡の調査や、本遺跡に関わる同時代の類似遺跡の表面調査も実施した。 なお本遺跡・碑文は既に盗掘や損傷を受けており、修復と保護が必要である。そのためにモンゴル遺跡センター所長にもご同行いただき、今後の修復や保存活動についても適切なアドヴァイスをいただけるように協議を行った。 また本年の調査結果は、9月26-27日にウランバートルで開催された国際シンポジウムで公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はモンゴル科学アカデミー歴史研究所考古学センターとの国際共同調査に関わる協定書に基づき、モンゴル国スフバートル県テブシンシレー郡のドンゴインシレー遺跡・碑文の発掘調査を行った。今年度も、昨年度の継続調査として東西方向のトレンチ溝及びマウンド周辺を取り巻く周溝の主な箇所を発掘調査し、遺跡の構造に関する新知見を得た。溝の周辺や碑文の根元付近からは、羊や馬の複数からなる骨片、炭などが出土した。また本遺跡の碑文について言えば、これまで確認された13本の碑文に加え、新たに1本の碑文が立てられていたことを証する複数の石碑断片の発見があった。なお今回のマウンド付近の発掘調査により、13本の碑文の中には、地中にその根元部分が残されているものがあることから、残りの碑文を含む碑文の本来の建造位置を確定することができた。本遺跡マウンド中央付近には2m四方の石槨がおかれ、その周りを碑文が長方形で取り囲んでいる。そしてその周りを排水溝が取り囲む構造が看取されるが、なおその詳細な構造復元に関してはまだ未発掘の箇所の更なる発掘調査が必要である。また、遺跡全体の位置調査に関しては、日本から持参したドローン機による空撮により、本遺跡の位置する景観や自然環境との関係性の中で、本遺跡の設置背景を復元するための資料を収集することができた。さらに本遺跡から北に5km離れた地点からも、本遺跡と密接な情報を刻む碑文や雄山羊タムガの刻まれた遺跡が確認されたので、この小遺跡の発掘も行った結果、ドンゴインシレー遺跡との密接な関連性がうかがわれることが判明した。これらの遺跡も含めて、付近の周辺遺跡についても新たに表面調査・発掘調査を行う必要があろう。 なお、本遺跡の修復・保存についてもモンゴル側の行政機関や研究機関とも協議を重ねている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、本ドンゴインシレー遺跡全体の正確な図面を完成させなければならないが、そのためにもなお未発掘箇所の調査を進める必要がある。特にマウンド周辺の排水溝の仕組みが複雑であるが、何とかその全容解明が必要である。また2013年春に私が発見した際にはマウンド周辺には土手のような盛り土が確認されたが、現在では発掘のため出入りする車の轍でその見分けがつかず、その全体像の解明にはまだ遠いので、今後更なる発掘調査を行う必要性がある。まずは、この土手の存否を確かめる手段の模索が必要があろう。また碑文については、14本のうちの1本の本来の設置場所がどこにあったのか、不明である。この位置を考察する手がかりを得たいと考える。また碑文自体の解読作業についても、引き続き拓本や写真資料を通して進めてゆきたい。 本遺跡からは、犠牲獣として羊や馬などの各部位の骨が出土しており、これらについても放射性年代測定を実施し、その埋葬年を通して遺跡の建造年代について考察を深めたいと考えている。 また、本遺跡の周辺地帯にも、本遺跡と関係する同種の古代テュルク文字碑文をもついくつかの遺跡が確認できているので、それらの発掘も可能な限り行いたいと考えている。 また本遺跡は盗掘され、損傷が激しいので、今後ともこの遺跡の修復・保存事業について地元のモンゴル側行政機関とモンゴル側の研究機関、さらには在モンゴル日本大使館などの協力も得つつ、現地調査を踏まえての遺跡保存協議を継続し、将来的に遺跡・碑文を保存するための手立てを探っていきたいと考えている。 また可能であれば、本遺跡調査の結果についても、国内外の研究会や学会を通して知見を広めて、本遺跡への一般の関心や興味をも広めてゆきたいと考えている。
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