研究課題
申請者らはH27年度にグリーンランド南東部で90mのアイスコアの採取に成功した。また、アイスコアを無事に低温研まで輸送することができた。H28年度はアイスコアの基本的な物理的・化学的な分析を実施し、密度・安定同位体比などのいわゆるアイスコア基本分析をほぼ終了した。物理的解析に関しては、いわゆるバルク密度とよばれるコアセクションごとに体積と重さを計測する手法とX線を用いた1㎜空間分解能の密度を測定し、両者の測定は誤算の範囲内で一致した。このアイスコアの密度は高密度領域で他のコアに比べて柔らかい(圧密しやすい)ということが明らかとなり、極地研や防災科研で行われているコアの電気的性質やCT画像と比較して、物理基本論文として国際誌に論文として公表した。化学的分析に関しては、基本となる水の安定同位体比とイオン濃度分析を低温研で実施した。水の同位体比プロファイルは同位体モデルと呼ばれる大気-海洋モデルや再解析データに水循環における同位体分別を組み込んだモデルによる同地域のプロファイルときわめてプロファイルが一致し、アイスコアの新しい年代推定法を確立した。イオン濃度に関しては、氷床ドーム(頂上)の中で有数の高涵養量地域であることが、積雪堆積後のイオン性物質の変質をきわめて抑制しており、イオン性物質の変遷を解読するうえで良質なアイスコアであることが分かった。特に変質を受けやすい硝酸イオンについて、産業革命によるNOx放出が極大をむかえた1960-70年以降もアイスコア中硝酸イオンフラックスが減少傾向を示していないことを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
解析しているアイスコアはこれまでグリーンランドで掘削されていない地域で得られたものであり、高精度の年代のもと高時間分解能な古環境情報を解読できる優れたコアであることを明らかにした。とくに、従来になかった同位体比モデルを利用した月単位の年代決定法の確立、氷床ドームアイスコアからは正確な復元が不可能であったとされてきた硝酸エアロゾルの経年変動を可能にするの中でオンリーワン的なコアであることが特筆すべき点である。また、日本国内の独創的な分析をされている方々との共同研究を推進しており、得られる成果の新規性・独創性は極めて高くなると考えている。H29年度はこういった共同研究からの応用解析的な成果の創出を見込んでる。
国内16研究室の協力の下でH29年度の計画を以下のように進めていく。1)基本解析のうち、公開に向けて最終段階に入っている化学成分の解釈を終わらせ、論文化する。解釈は同位体大気大循環モデルを用いて数値地球科学分野の専門家(芳村圭, Jesper Sjorte(ルンド大, スウェーデン))と密接に連携して進めている。2)大気モデルとエアロゾル輸送モデルを本掘削地域に適用し、アイスコアの物理化学的層位構造に深く関与する降水量・降水種の解析や降水・エアロゾル沈着メカニズムを解明する。3)近赤外写真、X線CT、氷の電気的性質の測定による、圧密氷化過程における雪氷比表面積の変化や圧密氷化過程プロセスの理解高度化を進める。4)アイスコア中の金属成分を分析し、AlやFeなどの物質の起源や輸送プロセスを解明する。5)放射性同位体比元素10Beや129Iを分析し、過去数十年における太陽活動や欧州の核処理の履歴を復元する。6)硫黄と窒素化合物の同位体比分析を行い、過去数十年における大気中の酸化度・人為起源物質の変遷を解明する。7)放射光による雪氷中エアロゾルの化学形態同定と経年変動を解析する。8)ラマン分光器による氷中不純物の直接観測を行う。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件)
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