研究課題/領域番号 |
26257202
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤田 耕史 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (80303593)
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研究分担者 |
杉山 慎 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (20421951)
福井 幸太郎 公益財団法人立山カルデラ砂防博物館, 学芸課, 学芸員 (10450165)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 氷河 / ヒマラヤ / 水資源 / リモートセンシング |
研究実績の概要 |
2016年5月にネパール・ロールワリン山域のトランバウ氷河にステーク網を設置し、質量収支、氷河流動、デブリ内の温度分布を観測した。同年10月~11月に再訪し、2016年の融解期における質量収支と氷河流動のデータを取得することに成功した。地中探査レーダ(GPR)による氷厚分布の観測により、上流域で氷河の厚さが約130mほどあることが確認された。現在氷河流動モデルの境界条件とするためには、もう少し測線を増やす必要があり、2017年も観測を継続する予定である。 2015年に発生したゴルカ大地震の被害調査の国際チームに参加し、衛星から地すべり地形を解析するとともに、氷河湖の決壊に関する解析を進め、Scienceに出版されたチームの成果に大きく貢献した(Kargel et al., 2016)。ブータン、ネパールに渡る東ヒマラヤにおける高解像度の氷河台帳の整備を進め、先行研究によって整備された氷河台帳と比較することで、ブータンヒマラヤにおける氷河分布に関する解析をおこなった(Nagai et al., 2016)。また、ネパールにおいては、1990年代に整備された氷河台帳と比較することで、近年の氷河変動を明らかにした(Ojha et al., 2016)。特に、高解像度の特性を生かし、最近の20余年で消失した氷河があることを明らかにした点が特徴である。ブータンにおいて継続してきた氷河質量収支の観測結果を論文としてとりまとめ(Tshering and Fujita, 2016)、東ヒマラヤにおける急速な氷河縮小の実態について明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年のネパール大地震によって観測開始が半年遅れたものの、調整金制度を利用することで、2016年春シーズンに観測態勢の立ち上げをおこない、2016年融解期のデータを満足いく精度で取得することができた。観測の実施は遅れたものの、国内にて衛星データの解析やモデルの構築、検証を進めることで、研究自体は順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
トランバウ氷河に設置したステーク網の再測量と気象データの回収を2017年秋シーズンおこない、質量収支、氷河流動、気象のデータを取得する。気象データを入力とした質量収支モデルによる計算をおこない、観測データによって検証を進める。UAVによる空撮を実施し、将来期待される再測量の際の参照データとなる高精度なデジタル標高データを作成すると共に、1970年代、2007年の空撮写真から作成するデジタル標高データと比較することで、近年数十年の氷河変動量を明らかにする。 取得した観測データの解析を進め、デブリに覆われた氷河の融解モデルの高精度化を進める。氷河氷厚の観測データは氷河流動モデルの境界条件となり、氷河流動の観測データは氷河流動モデルの検証データとして利用し、氷河湖との相互作用と底面の温度水環境に関する理解を深める。 観測データの解析、モデルの高精度化と並行して、前年度までに解析がすんでいる、衛星データによる氷河変動量の見積、デブリ氷河の形成に関する周辺地形の影響、アジア高山域における氷河質量収支の気候変化への応答感度などに関する論文の執筆を進め、本科研費最終年度中の出版を目指す。
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