研究課題/領域番号 |
26257206
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 喜宏 京都大学, 防災研究所, 准教授 (30435581)
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研究分担者 |
木戸 元之 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (10400235)
芝崎 文一郎 国立研究開発法人建築研究所, 国際地震工学センター, 上席研究員 (20344012)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スロースリップ / 海底圧力観測 / ヒクランギ沈み込み帯 / 巨大地震 / ニュージーランド / 国際研究者交流 / 室内実験 / 路頭調査 |
研究実績の概要 |
本課題はニュージーランド北島の東方沖のヒクランギ沈み込み帯において、海底圧力計を用いた海底地殻変動観測を実施し、スロースリップ域の時空間的特徴を正確に記載することにより、同地域で発生するスロースリップモデルの高度化を目的とする。 平成29年度は、昨年度と同様に米国・ニュージーランド・日本の国際共同観測として海底観測機器の回収および設置作業を行った。作業は平成28年6-7月にニュージーランドの研究調査船舶を用いて実施し、昨年度6月に設置された5台の圧力計の回収作業および5台の海底圧力計の設置作業を行なった。さらに、曳航ブイによる計29時間のGPS-A測位観測を実施した。回収された圧力計記録から精度よく地殻変動成分を抽出する手法を開発した。平成28年9月テ・アラロア地震および11月カイコウラ地震に伴う海底圧力記録の解析を実施した。 また、既存のスロースリップモデルに基づき、速度・状態依存摩擦則を用いた発生サイクルのモデル化も昨年度に引き続き進めた。また、トラフ軸近傍の浅部で発生するスロースリップの総合的理解に向けた国際共同研究を英国カーディフ大学および筑波大学と昨年度から引き続き実施した。さらにスロースリップによる摩擦弱化実験を昨年度と引き続きドイツ・ブレーメン大学と共同で実施した。 本課題に関連した研究集会として、2つの国際ワークショップを開催した。1つはJST-JICAのSATREPS課題と連携して2017年7月に開催し、国内外合わせて50名が参加した。ワークショップでは、スロー地震の発生メカニズムや関連して発生する巨大地震による災害に関する多岐に渡る最新の研究が紹介された。また、国際研究小集会を2018年1月に開催し15名が参加した。小集会では海底観測における現状と課題について特に海底地震・圧力・GPS/A観測に関する最新の情報が交換された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年3月から平成29年7月までの観測期間に回収された海底圧力計から少なくとも6-8回のスロースリップが発生している。平成26年9月に観測されたスロースリップの地殻変動については、国際共同研究として設置されたすべての海底圧力データを統合して、スロースリップの断層モデルの推定に成功し、沈み込む海山や周辺で発生する津波地震との関係を調べることができた。2016年カイコウラ地震によるヒクランギ沈み込み帯浅部短期的SSEの動的トリガリングのモデルを構築した。シミュレーションの結果、浅部短期的SSE域の応力降下量そのものが小さいので、地震動による応力変化により短期的SSEが励起されることが示された。 2016年カイコウラ地震(M7.8)の地震に伴い、本研究対象領域でスロースリップが誘発された。誘発のメカニズムについては陸上地震観測から本震の地震動により生じた動的応力変化による可能性が示唆されている。しかしながら、スロースリップ域直上に地震観測点がないため、十分な検証は行われていない。そこで、観測された海底圧力記録から地震動を再現し、動的応力変化に関する地震動の検証を行うこととした。結果、陸上観測から想定されていた以上に、本震震源域から放射された地震動のエネルギーが長時間スロースリップ域直上の付加帯内に停滞し、500秒程度大振幅の地震動が継続していたことが分かった。500秒程度継続する動的な応力擾乱により、スロースリップが動的に誘発された可能性が示された。 計画4年目で「スロースリップがトラフ軸まで到達している」ことと、過去に発生した津波地震との関連性について言及できたこと、また圧力記録から地震動を再現しスロースリップの誘発現象に言及できる成果が得られた点を鑑み、当初の計画以上に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の調査で使用するニュージーランドの研究船舶を確保することができた。平成27年度の成果として、スロースリップがトラフ軸まで到達している可能性が示唆されたが、今後は、繰り返し発生するすべてのスロースリップがトラフ軸まで到達するのか否かを昨年度に引き続き検証する。特に規模の小さなスロースリップの検出に向けた手法の開発を行う。さらに、海底観測から得られたスロースリップ発生域および発生間隔を考慮したスロースリップのモデル化をより一層進める。
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