研究実績の概要 |
本研究は、放射性物質に汚染され40年にわたりその観測が続けられているロシア・シベリア地方のMayakを対象に、地下水中の放射性核種の挙動を、【1】微生物の関与として、①脱窒活性の推定. ②優占細菌による放射性元素の吸着現象の解明. ③希土類元素(REE)をアクチノイド類のアナログとした細菌粒子の関与の推定.【2】ナノ粒子-放射性核種作用系を原子レベルでの解析.の観点から明らかにし、これらを組み込んだ【3】GETFLOWSによる地層中での放射性核種の拡散に関するシミュレーションモデルの構築することを目的とする。 しかしながら、シミュレーションモデルの構築に必要な地形並びに地質環境に関する基礎データの収集が思うに任せない。このため加藤が平成27年5月にロシアを訪問し、St. Petersburgで開かれた国際研究集会『Modern problems of genetics, radiobiology, radioecology and evolution』 で【1】①に関するMayakで得られた成果を発表した後、モスクワを訪問してKamylkovモスクワ連邦大学教授に情報収集を依頼し、またNazina ロシア科学アカデミー主席研究者と論文作成に向けた検討を行った。8月には、微生物情報を組み込んだモデル化の準備として進めている富士山地下圏での研究成果をプラハで開かれたGoldschmidt地球化学国際会議で発表した。なお研究成果については論文化が進んでいる(Sugiyama et al. Biogeosciences, Discussion Paper, 2016, 加藤が責任著者)。また【1】①については、現場サンプルの比較的簡易な処理による試料を対象とした高精度な遺伝子による脱窒活性細菌の検出手法GeneFISH法の改良を進めた(成果は日本微生物生態学会発表)。③については、成果の論文化が進み (Takahashi et al. Geochemical Journal, 2015)、同手法の有効性が確立した。【2】については、セシウムの挙動について連携研究者の宇都宮らが福島での研究成果をまとめた(Yamanaka et al. 2016)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【1】微生物、【2】ナノ粒子、【3】シミュレーションモデル、の三つの研究課題ともに研究成果が出始めており、一部論文化に取り組み始めた。進捗は順調であると判断している。微生物情報を組み込んだモデル化の準備として進めている富士山地下圏での研究成果を論文化した(Sugiyama et al. Biogeosciences, Discussion Paper, 2016, 加藤が責任著者)ものについては、2016年4月26日から5月18日の間オープンレビューとしてインターネット上に公開され(http://www.biogeosciences-discuss.net/bg-2016-78/#discussion)、すでに肯定的な査読結果が一つ届いて、加藤らがこれに回答したところである. 一方、シミュレーションモデルの構築に必要な現場ロシア・シベリア地方のMayakの地形並びに地質に関する質の高い情報の入手が容易ではないことと、現場で多数掘削され情報が存在するはずの水文科学的な情報(特に、地下水位の情報となる掘削井の水頭Water headについて)公表してもらうことができずやや困難な状況にある。このことを加味すると、研究全体の進捗は<おおむね順調>と言うことになる。
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