研究課題
本研究は、食肉目野生動物を食料や漢方薬、毛皮として利用する中国および東アジア、ロシア極東地域の経済活動によって、絶滅危惧となったブタバナアナグマを含む中型食肉目5種を指標種として、生息地改善および経済的利用の抑止の両面から個体群復元のための保全策を提案する。ファインスケールとラージスケールにて個体群の遺伝的構造、社会生態、生息地保全のためのkey habitat、動物と人間との関わりを調査する。そして動物による種子分散をとおした保護区管理方法、および地域生態系の動物の役割についての地域住民への普及啓蒙内容を具体的に提案する。現在もなお拡大する野生動物市場問題の解決、また経済的利用により劣化した野生動物個体群復元のための地域アプローチ策は、アジア全域とロシア極東地域に適用することができる。環境選好性や人間との関わりの程度の異なる中型食肉目5種(ブタバナアナグマArctonyx collaris、 ユーラシアアナグマMeles spp., ハクビシンPaguma larvata, イシテンMartes foina、キエリテンM. flavigula)を、生息地保護のための指標種として位置づけ、以下の3項目について明らかにする。1. 森林消失や開発による生息地の断片化の実態2. ラージスケール、およびファインスケールにおける動物個体群の衰退状況と影響要因3. 食肉目保護の障害となる問題(野生動物の食肉や毛皮利用)の実態、住民の動物への意識研究期間2年目にあたる2015年度は、ラージスケールの研究を主に行った。すなわち、アナグマMeles属の遺伝的多様性に関するDNA分析、および臭腺分泌物の化学成分分析を、日本、ヨーロッパ2箇所(イギリス、ブルガリア)、ロシアからサンプルを取得して分析した。また、中国における野生食肉目動物の漢方薬利用についての論文を執筆した。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度は、臭腺分泌物の分析について、大きな進展が見られた。日本、ブルガリア、英国からアナグマのサンプルを取得して分析し、その結果地理的に大きく隔たった各個体群のなかにも、共通の化学成分が4つ存在することを発見した。これは世界的に見てはじめて得られた内容であった。
広域調査では、今後ロシアからのサンプル取得、および日本についてもう1地域(四国)からのサンプルを取得して、臭腺化学成分とDNAの分析を行う。DNAの分析では、マイクロサテライトの他に、MHCなどの機能性遺伝子の分析を入れて多様性評価を行う予定である。これらの研究成果について、2017年7月にオーストラリアにて開催される国際哺乳類学会議(12th International Mammalogical Congress)においてシンポジウムを主催するために、企画申請を行った。アジア地域の研究について、漢方薬利用の動物個体群への影響評価を行うための、統計解析を新たに行う。
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