研究課題/領域番号 |
26257415
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宇波 耕一 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10283649)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水資源 / ポートフォリオ問題 / 乾燥地農業 / 水利施設 / 死海 / 国際研究者交流 / 国際情報交換 / ヨルダン |
研究実績の概要 |
本研究は、死海沿岸地域、とくにヨルダンに帰属するリサン半島を対象とし、再生可能水資源の新規開発手法を提示した上で既存水資源と併せて動態の数理モデル化を行い、最適水資源ポートフォリオを導出して有効性を実証することを目的としている。 初年度である2014年度には、実証試験を実施するための施設を、リサン半島に位置するムタ大学試験農場に構築することに集中した。まず、荒野から流出する洪水を収集する底部取水型取水工ならびに貯水工を、数値実験と水理模型実験にもとづいて設計、施工した。数値実験は、すでに開発済みの2次元浅水方程式に対する有限体積法モデルを用いて行った。水理模型実験は、京都大学総合農業水利実験場(舞鶴市)に水平幾何縮尺1/8、粗度縮尺1/1の歪み模型を建設し、舞鶴湾から海水を揚水して行った。施工は、地元の小規模な建設会社に請け負わせ、おおむね設計どおりに完成したが、細部に変更が生じたため再度数値実験を行って性能を検証した。この一連の過程は、2015年度に開催される国際水圏環境学会世界大会(オランダ)にて口頭発表することとなった。また、気象・水文自動観測装置をこの取水施設上に設置し,順調にデータを計測中である。一方、実際にこの施設において収集された水は、海水に近い塩分濃度を有することが明らかとなった。そこで、淡水を得るための除塩プラントを設置することを検討した。除塩プラントは、ビニールハウスを改造した新規的なものであり、総合農業水利研究実験場での予備実験ならびに現地での仮設置において十分な性能を確認した。2015年度前半に完成し,必要に応じて改良,増設していく予定である。 以上の状況を踏まえ、現象を記述する確率過程モデルならびにそれに対する最適水資源ポートフォリオについての理論的、数値的研究を行い、国内の学会にて口頭発表を行った。また、国際誌に論文が掲載予定となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標としていた、ヨルダン国ムタ大学試験農場への底部取水型取水工ならびに貯水工の建設が予定通り完了した。露収集施設については、研究開始後に明らかとなった状況により当初の想定とはかなり異なった構造のものとなったが、2015年6月に完成する目処がたった。また、データ取得に必要なセンサーやロガーに関しても適切なものを設置することができ、計測が続いている。さらに、研究協力者により類似地域であるイラン国乾燥地域の調査を行い、本研究の普遍性と地域依存性について位置づけを行うことができた。このように、実証試験を実施するための基盤整備の面からは、当初の計画以上の進捗状況である。2014年度後半には、このように基盤が整ってきたので、実際の施設ならびに得られた観測データにもとづき、最適水資源ポートフォリオを導出するための数理モデルについても研究を進めた。すなわち、モデルの構造そのものの改善、それに伴うパラメータ推定手法の変更、数値計算スキームの開発において、一応の進展が見られた。具体的には、渇水レベルを表す確率過程モデルにおいて、渇水期間を現す領域を有界領域から半無限領域に変更した。これにより、パラメータの定義が若干異なったものとなり、また、数値計算にあたって変数変換を行う必要が生じたが、巧妙な数値技法を導入することにより大きな課題を残すことなく解決した。よって、以上に関しては、おおむね順調に研究を進めることができたと考えている。一方、塩分や作物生育のダイナミクスに関しては、実験、観測、モデル化、数値解析すべてにおいて、2015年度に集中して取り組む必要がある。また、渇水レベルに対する確率過程モデルの導入や水資源ポートフォリオの概念については学会において十分理解されていないことが現状であり、研究成果の発信により努めるべきであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ムタ大学試験農場における実証試験のための施設が整備されてきたので、今後は、この施設と数理モデルの間でPDCAサイクルを進めていく。実際、初年度において、数値実験、水理模型実験、構造物現地施工のスパイラルアップを成功裏に完了しており、これに類似したプロセスを洪水収集、除塩プラントの運用、作物生産からなるより複雑なシステムに拡張する。除塩プラントは、ビニールハウス内に撥水布などを設置し、導入した塩水を蒸発、結露させて淡水化するものであり、極めて新規性が高いため、特許出願を行う。作物生産に関しては、ビニールハウスを利用した育苗、冷涼な高地との移植、点滴潅漑による露地栽培といったさまざまなオプションを踏まえ、水、塩分、熱、施肥、市場価格などと併せて生育動態のモデル化を行う。システム全体に対しては、最適水資源ポートフォリオを適用していくため、確率過程の最適制御に関する基礎研究も強力に推進する。支配方程式であるHJB方程式は楕円放物型偏微分方程式であり、その解析手法、とくに数値計算手法が中心課題となる。数理モデルの開発や数値解析のため、研究室の計算機環境を改善するとともにスーパーコンピューターを利用し、研究員を時間雇用し、大学院学生の協力も得ることが必要である。研究代表者は、各年度3回のヨルダンへの渡航を予定しており、諸施設の設計施工監督、観測装置の維持管理、作物栽培試験、現地研究協力者との意見交換を行いつつ実施する。また、ヨルダンでの栽培実績が乏しい作物の試験に関しては、バングラデシュの専門家からも助言を受ける。得られた結果については、国際学術誌にて発表するとともに、国内外で学会発表を行う。なお、学会発表は、研究協力者が行うものも含む。研究の進捗状況は、機密性の保持に留意しつつ、研究室フェイスブックなどを通じ可能な範囲で発信する。
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