2014年度から2017年度の4年間をかけ、底部取水型取水工、貯水池、除塩プラント、受益地圃場からなる灌漑スキームのプロトタイプを、死海リサン半島に位置するヨルダン国ムタ大学試験農場に完成させた。これらの諸施設には、気象・水文自動観測装置、除塩プラントの熱力学系観測装置、土壌物理と作物成長の観測システムなどを整備して、データ収集を行った。2017年度からは、受益地圃場において、観測装置などから得られる情報をフィードバックすることによって点滴灌漑水路網を合理的に制御し、耐塩性かつ高付加価値のナツメヤシを栽培してきた。学術上の主な実績としては、除塩プラントの熱力学系モデルを構築し、パラメータ推定やモデル検証を実施し、国際学術誌に論文が受理された。また、除塩プラントから得られる淡水を点滴灌漑水路系に供給する貯留タンクの最適運用戦略に関しては、離散時間動的計画法の枠組みにおいて数理解析を行い、国際学術誌に論文が掲載された。その内容は、報酬関数の連続性に関して異なった2ケースを考え、価値関数の正則性を論じた上で時間周期解の一意存在性を検討し、数値計算の結果から誤差評価を行うものとなっている。さらに、本研究の成果は中東地域において学術的、実際的に極めて大きな意義を有することから、トルコ共和国コンヤ市で開催されたIGCC、ヨルダン王国ムタ大学で開催されたESACの両国際会議に、科学委員として参加し、招待講演を行った。また、九州大学IMI共同利用として企画した研究集会が採択され、主に時系列データのモデル化と解析について国際的、学際的な討議を行った。とくに、ナツメヤシの生育を目的とした塩水と淡水の最適ポートフォリオ、灌漑用貯水池における洪水制御などについて、学術的に顕著な進展があった。
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